イギリス人らしさというものが存在するということは何となく知られていることでしょう。
それについて、イギリスの人類学者であるケイト・フォックスさんが「身をもって」調査しました。
なお、人類学でもこのようなテーマというのは本流ではなく、本人も「私はポップ人類学者だ」と言っているそうです。
なお、日本から見れば「イギリス人らしさ」ですが、本書原題は「Watching the English, The Hidden Rules of English Behavier」であり、それを邦訳した題も「イングリッシュネス」としたように、イングリッシュを主題としています。
これについては本書冒頭にもあるように「あくまでもイングランドが対象であり、ブリティッシュ全体を含むものではない」ということです。
ブリティッシュと言えばスコットランドやウェールズなども入ってしまいますが、そちらではやはりかなり人々の振る舞いも違ってしまうようです。
イングリッシュらしい振る舞いということで注目されているのは、「天候の話」「グルーミング・トーク」「ユーモア・ルールズ」「言語と階級」「パブの作法」「競馬」というテーマで、いかにもそれらしいと感じられるものです。
フォックスさんはこのようなテーマを調査するために、「半科学的方法」で実行しています。
さまざまな調査方法(観察、参与観察、インタビュー、グループ・ディスカッション、国家的規模の調査、約2年間にわたる野外実験)を用い、イギリス人の行動のなかのパターンないし規則性を把握する。
そのような行動のパターンを支配する不文律を見出し、さらに吟味し証明する。
最後にそれらの不文律が語るイングリッシュネスを明確にしようとした。
こういった書き方を見ても「イングリッシュ・ユーモア」に溢れていることが見て取れます。
グルーミング・トークという言葉はあまり知られていないかもしれません。
野生の猿に見られる、ノミやシラミを取ったり背中を掻いたりし合うのがグルーミングですが、そういった行動の代わりになるのが「グルーミング・トーク」すなわち潤滑油となるような会話ということです。
イギリス人は他の国の人々のように会ってすぐにべらべらとしゃべるということはしません。
名前すら明かすのはかなり親しくなってからであり、それまではお互いに名乗ることもありません。
しかし、徐々に付き合いを深める中でそろりそろりと潤滑油のような会話を重ねていくという行動をとるというのがイギリス人らしいところであり、それができない人間は批判され排除されるということにもなります。
それが「イングリッシュネス」ということかもしれません。
細かい言葉使いの隅々にまで階級が影響するというのがイギリスです。
階級差に加えて地域差もあり、話す言葉を聞くだけでそれがどこの地域の出身でどの階級の出かということが判るというものです。
なお、現在では労働者階級であっても経済的に成功し大邸宅に住むという人も居ますが、それでも労働者階級の発音でソファのことを「セティ」、昼の食事を「ディナー」と呼べば「労働者階級」であることが即座に理解されます。
逆に上流階級の出でも零落し場末のアパートに住む人も多いのですが、上流階級の語彙を上流階級のアクセントで話せばやはり「上流階級」と見られるのです。
そこにあるのはイギリス人のもう一つの特徴、すなわち「ことばへの愛着」があるということです。
階級の識別には言語的表現がよりどころとなり、貧富や職業は無縁だということです。
まあ、面白い内容ですが、これを信じるとやはりイギリス人というのは付き合いにくい人たちだなという感想です。