爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「探求:上巻」ダニエル・ヤーギン著

石油をはじめとするエネルギー問題の専門家のダニエル・ヤーギンの本は最初のハーバートビジネススクールの調査レポート、そして1991年出版でピューリツァー賞受賞の「石油の世紀」と読みましたが、この本は2011年の著者最新刊で、ソ連崩壊後のカスピ海周辺のアゼルバイジャントルクメニスタンといった産油国の詳細から、湾岸戦争イラク戦争などの紛争、石油の価格高騰やエネルギー問題、石油の供給不安など、エネルギーに関する様々な問題について書かれており、その全世界に広がり、かつ細かい記述には圧倒されます。
しかし、詳細な内容の端々に違和感を感じる部分があります。
あまりにも大きな世界の中でその裏の裏まで精通しているがために、逆にその大きさに絡め取られているのではないか。

著者は石油産業の始まった当初からの石油業者、政府、消費者について詳しく調査し、実際に中に入って聞き取るということも重ねており、世界中の石油全体像を十分に把握している。しかし、逆にそれが石油イコール人類社会といった観念に結びついてしまったのではないか。
本書の中には欧米では非常に近年騒がれているオイルピーク説にも大きな章が割かれています。(日本ではあまり注目されませんが)しかし、著者は石油社会についてあまりにも通じすぎているためにオイルピーク論者の議論の欠点も簡単に見破ります。
新たな油田の発見が減少しているという点については、そもそも油田の新発見よりも最近は既存油田の埋蔵量の飛躍的な向上が主であると指摘します。また、近年の石油価格の途方も無い高騰は実需と供給の関係はほとんど寄与せず、主に投機筋の資金の流れによるものであると論じます。
オイルシェールもあと100年分は十分に存在すると指摘し、オイルピーク説は成り立たないという非常に楽観的な見方をしています。
どうしても違和感を感じたのはこのあたりです。100年持てばいいの?その先は?ということで、「結局いずれ石油は無くなるのだ」ということを著者は頭に置いていないということです。

最近読んだ環境倫理学の本によれば、現存の資源を自分たち世代だけで消費尽くすのは「世代間倫理」に反する行為という考え方があります。ヤーギンはあまりにも石油社会に精通しすぎたために、他の倫理が入る隙間が頭には残っていなかったのでしょう。

本書には下巻もあり、そこでは電気、二酸化炭素温暖化、新エネルギーなどが取り上げられるようです。この上巻の論旨から見て、どのようなものになるか想像できる気もしますが、読んでみようかどうしようか迷います。