爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「キノコの教え」小川眞著

菌類学(キノコなど)が専門で森林総合研究所で研究をされた後独立された小川さんが一般向けにキノコについて書かれた本です。

キノコがどのように進化してきたかと言うことは、化石がほとんど見られないために良く分かっていないようです。しかし、植物とともに進化してきたのは間違いなさそうです。
しかし、キノコといってもその栄養獲得の方法では、死んだ植物を分解する腐生、生きた植物に取り付く寄生、生きた植物と相互に恩恵を与えながらの共生とさまざまな様式を取ります。

キノコは食用になるかどうかが関心の的になりますが、毒があるかどうかは一概には言えず、分かっているものだけを食べるしかないということです。また、味のよいキノコというのはほとんどが土から生える菌根性のキノコで、それは土の中で小動物の死骸などからのアミノ酸を吸収するから美味しくなるのだとか。マッシュルームやフクロタケの栽培にも馬糞や鶏糞を使っているということで、まあそれを考えると少し食欲も落ちそうです。

また、キノコは重金属をよく吸収するという性質があり、それが多いような土地のものは危険なものも有得るとか。原発事故の際にも話が出ましたが、放射性セシウムもよく吸収するために放射線が高いものも出てしまうようです。
これは特に菌根性のキノコの場合で顕著で、酸性土壌を好むためにカリウムなどをよく吸収する性質があるのでセシウムも吸収しやすいそうです。腐生の落葉に生えるようなキノコではその傾向は小さいということです。

食用になるキノコを栽培しようとする試みは古くから実施されており、日本ばかりでなく世界中で行われていますが、トリュフは菌根性のキノコでそれを付けた植物を栽培すると言う方法である程度の生産ができているそうですが、マツタケの場合はどうも上手く行かないようです。これは実はマツタケが本当の意味では「菌根をつくり共生している」というわけではなく、実はアカマツにとっては良いことはなく寄生されているというからだそうです。病原菌のようなものなので、アカマツが嫌がるとか。それは知りませんでした。

現在は日本ばかりでなく世界中で森林が枯れるといった現象が見られるようですが、特にひどいのがナラ、シイ、マツなど菌根性のキノコと共生関係にある樹種だそうです。そしてそれは菌根性のキノコが先に死んでしまい、それが無くなった樹木も徐々に弱ってしまい段々と衰弱するように枯死してしまうということのようです。それを治すためには炭を撒いてやるという手段が有効だそうですが、なかなかそれを理解してくれる人は少ないそうです。

なお、本書で書かれたところで意外だったのは、「なぜ石炭ができたか」ということで、実は石炭紀(3億5千年前)と言われるころにはまだキノコのような木材分解菌の働きが弱く、枯死した樹木が分解されないままに土に埋もれて石炭になったのだとか。それ以降は枯死するとすぐに分解菌が働くようになったために、それ以降は石炭化することは少なくなってしまったのだそうです。これも知らなかった。