爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「菌根の世界」齋藤雅典編著

菌根といってもあまり馴染みはないかもしれませんが、マツタケアカマツと共生しているという話は誰もが聞いたことがあるかもしれません。

この植物の根とキノコやカビなどの菌類が共生している状況を菌根と言います。

実は多くの植物で菌根が形成され、その助けを借りて繁茂しているようなのです。

そういった「菌根の世界」について、編著者の齋藤さんの他にも多くの研究者たちが紹介しています。

 

菌根には植物の根の表面を覆う外生菌根と、根の内部に入り込む内生菌根とがあります。

どちらもカビの一種ですが、子実体を形成するものはキノコと認識されます。

菌根菌と植物とは一定の結びつきの範囲があるものがあり、場合によっては一種のみの菌と植物との関係の場合もありますが、広い範囲に付く菌もあります。

マツタケ菌はアカマツだけのようですが実は他にも何種かの植物とも共生できるようです。

 

地球の歴史の中で、植物が陸上に進出したのは4億3千年前でした。

すでにその頃の植物の化石にカビの形態に類似するものが付着しており、陸上植物の最初の頃から菌根が形成されていたようです。

その頃から菌根として発達していたのが、現在でも広い範囲に生育しているアーバスキュラー菌根菌という種類でした。

3億5千年前には大森林が出現したのですが、その頃にはまだ木材のリグニンを分解する微生物が無かったために木材は枯れても分解されずに残り、それが地中に埋もれて石炭となりました。

この石炭紀の終わりごろの3億年前になってリグニンを分解できる担子菌類が出現します。

キノコの化石は残りにくいためにはっきりしませんが、2億年ほど前までには樹木と共生する外生菌根形成のキノコとなる菌根菌が出現していたものと見られます。

 

菌根菌が樹木の栄養吸収を助けるといってもその機構の解明には長い時間が必要でした。

1970年代以降になってようやくアーバスキュラー菌根菌は土壌中のリンの吸収を促進するということが分かるようになりました。

リンは土壌中に無機態のリン酸の形態で存在し、土壌中の粘土鉱物に吸着されているために窒素やカリに比べて土壌中での移動速度が遅く、植物の根はリンを吸収するためにはリン酸が存在するところまで根を伸ばさなければならないのですが、それをアーバスキュラー菌根菌の菌糸がすばやく長く伸びることで助けるのです。

一方、植物体の光合成で形成された炭素化合物は逆に根を通して菌根菌に供給されることで菌の生育を助けることになります。

 

マツタケトリコローマ・マツタケという種が日本のものですが、これは東アジアからスカンジナビア半島まで分布します。

これと近縁な種として、アメリマツタケ、メキシコマツタケ、アナトリアマツタケ(トルコ)、などがあり食用とされています。

日本国内でもマツタケ近縁の主としてニセマツタケバカマツタケといったものがありますが市場でもマツタケとは区別して扱われます。

日本国内では北海道から九州まで分布しますが、西日本ではほぼアカマツ林に限定されるのに対し、東日本では長野でもアカマツだけでなくツガやコメツガ林にも生育します。他にもシラビソにも分布します。

北海道ではアカマツは生育しないため、トドマツ、アカエゾマツ、ハイマツ林に分布します。

マツタケの量産のためにいろいろな研究が為されてきましたが、まだ成功しているとは言えないようです。

マツタケの生育ということはまだまだ分からないことだらけだとか。

 

ランは特有の菌根があることが知られていますが、ランの種子は他の植物の種子と異なり胚乳などの栄養分がまったく無く、飛ばされて地上に落ちた時に近くに菌根菌が居なければすぐに死んでしまうそうです。

運よく菌根菌と巡り会えた種子だけが生育できるとか。

 

植物でも光合成の能力を捨ててしまい、菌根菌の栄養だけに頼る菌従属栄養植物というものがあり、いわば菌を食べる植物と言えるのかもしれません。

ランやツツジ、リンドウの仲間の中に多くの菌従属栄養の種が存在しているようです。

 

菌根菌と共生している植物は成長が良いからと言って、菌根菌を与えてやってもっと生育をよくしようとしても、なかなか上手くいかないようです。

これは火山噴火や大規模な山火事で菌根菌が絶えてしまった場合には菌根菌を加える意味があるのですが、そうでなければ何らかの菌根菌が地中に存在しているために競合してダメなのだとか。

 

菌根というものはまだまだ分からないことが多いようです。

こういった研究に心惹かれるものがあります。

学生時代に知っていれば。