爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ガリツィアのユダヤ人」野村真理著

ガリツィアというのは現在はポーランド南部とウクライナ西部を含む地域を指します。

その中心都市リヴィウの名はよほどの専門家でなければ知らなかったのですが、ロシアによるウクライナ侵攻では何度もニュースに登場するようになりました。

 

この地域にはかつてはポーランド人、ウクライナ人に加えてユダヤ人が多数混在していました。

しかし現在ではユダヤ人はほとんど居ません。

その歴史を描いたものです。

 

ヨーロッパ東部にはもともとはユダヤ人はほとんど住んでいませんでした。

中世まではヨーロッパでもドイツ語圏に多く住んでいたユダヤ人が東方に移ったのは十字軍のためです。

これはエルサレムイスラム教徒に対して行われたのですが、その目は近くの異教徒、ユダヤ人に対しても向けられ、迫害するようになります。

そのために逃れて東ヨーロッパに移っていったのがユダヤ人人口が増えるきっかけでした。

そのユダヤ人たちを迎えたのがポーランド貴族でした。

貧しかったポーランドにとって金持ちのユダヤ人は傘下にとどめておきたい存在でした。

本書の舞台となるガリツィアはまだ貧しい農業地帯でしたが、農民はルーシン人と言われる人々でその後ウクライナ人と言われるようになります。

そして領主はポーランド貴族、その中間層としてユダヤ人が入り込むことになります。

ユダヤ人は金融業などに従事する金持ちもいましたが、多くは貧しい人々でした。

彼らは農業以外のすべての仕事をするようになります。

 

その後支配者は変わりオーストリア帝国が君臨しますが、その中でもユダヤ人は便利な存在であり、特別な税金を課して搾取されました。

それでも時には暴動で略奪されたり殺されたりといったことはあっても、多くの人々の虐殺と言うことにはならなかったのですが、それが世界大戦を迎える頃には一変します。

 

オーストリアは没落したものの、ドイツやロシアが勢力争いをして代わる代わるガリツィアを領有します。

その時に支配の手下として使われたのがユダヤ人でした。

苛斂誅求政治犯の虐殺などを行った支配者たちは、勢力図が代われば撤退していくのですが、ユダヤ人たちには行く場所はありません。

復讐の矛先が向くのがユダヤ人で、多くのポグロムユダヤ人虐殺)事件が起きます。

 

それを起こしたのはドイツ人ばかりではありません。

ポーランド人、ウクライナ人も次々とポグロムを起こしています。

その最後の仕上げがナチスドイツのユダヤ人大虐殺であったともいえます。

これでガリツィアにはユダヤ人が全く居なくなりました。

 

第二次世界大戦後の地域再編でガリツィアは東部をウクライナに西部をポーランドに分割し、住民もそれぞれの地域に移住してきれいに分かれました。

しかしそこにかつては混住していたユダヤ人の姿はありませんでした。

 

民族間の争いが絶えないヨーロッパですが、その中でも厳しい闘争が行われていた地域のようです。

現在でもまた別の争いが起きてますが、いつまでたってもそういったことが絶えることはないのでしょうか。