爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「エネルギー大論争」バリー・コモナー著

アメリカは国内産の原油をフルに使って産業化を進めましたが、さすがに1960年代からその生産量は落ち、中東産原油の輸入を増やしていきました。

しかし中東戦争に伴う原油貿易の削減で起きた石油ショックで大きな影響を受けます。

それに対して当時のカーター政権が出したのが「国家エネルギー計画」でした。

原子力と石炭に注力しようというものですが、その後この計画をめぐり多くの政治的な軋轢が生まれました。

 

本書はそれに対して環境科学者のコモナー教授がアメリカの将来のエネルギー政策について論じたもので、1979年に原著が出版、その後1980年に日本語訳書が発売されています。

その主な主張は「ソーラーエネルギー体制」に移行すべしというものです。

この場合のソーラーエネルギーとは現在のように太陽光発電(本書では”光電池”と表現)だけでなく、太陽熱温水、風力も含むものを指します。

さらに供給の平滑化を図るために水素製造、メタン製造、蓄電池もフル活用するというものです。

 

まだ太陽光発電装置もそれほど高効率のものが出現しない時点でこのような思い切った提言をするというのは驚きです。

しかし著者は非常に自信たっぷりにアメリカが総力をあげて取り組めば太陽光発電のコストが当時で1ワットあたり15ドルのところ、3年で3ドル、5年で0.5ドルに低下するだろうと言っています。

その技術開発に対する楽観も桁外れかと思います。

 

このあたりは著者の経歴にも関係すると思います。

モナー教授は生物学が専門で、その後環境科学へと興味の対象を広げています。

非常に的確な認識をされている点が多く、たとえば石油や石炭などは完全に「非再生的エネルギーであり、いつまでも頼るわけにはいかない」としており、当時も今もほとんどの科学者が持っていない認識であったことが分かります。

しかしどうやら科学技術的な開発と言う点についてはあまり考えが及ばないようで、上記のように太陽光発電のコストが劇的に下がるというのは夢物語でした。

この辺は大量生産神話というものの影響が大きかったのでしょう。

これも現在でも囚われの人がたくさんいます。

 

太陽光発電風力発電だけではエネルギー供給の安定性が確保できないということも理解しており、そのために水素製造やメタン製造を取り入れるという発想もありました。

ただし、その生産性や効率については考えが及ばなかったようです。

しかし電力生産だけでは国内エネルギー供給ができないというのは忘れてはならない点であり、これを理解できない人は多いようです。

このために核増殖炉構想は不可能という判定をしていました。

電力だけでは国内に送電するコストが高くなるというのは忘れてはいけない点でしょう。

 

もう40年以上も前の本ですが、現状を考える上でも大いに参考になるものでした。