温暖化のせい?なのか、世界各地で大規模な山火事が発生しているといわれます。
その原因も失火や放火と報じられることも多いようです。
しかし、古植物学が専門で世界各地で木炭の化石を発掘し研究してきた著者から見るとかなり誤解が多いようです。
まず、現在の山火事もほとんどが自然発火だということです。
その多くは落雷によるものです。
また、火事が起きるためには燃えるものがなければなりません。
それは植物ということなのですが、植物が地上に繁茂し始めると山火事も発生するようになるものの、地質時代で火災が発生した時期とそうでない時期は歴然と分かれるようです。
そこには「酸素濃度の変化」が大きく関わっています。
現在の大気中の酸素濃度はおよそ21%ですが、その濃度は時代によって大きく変化してきました。
酸素濃度が16%未満では植物は燃えることができず、18%では発火してもすぐに消えてしまいます。
21%(現在の濃度)では少し濡れた素材でも燃えることができ、酸素濃度が30.5%以上になると水をしみ込ませた植物でも燃えるそうです。
そしてこれは各地質時代において植物の燃えた形跡がどの程度残っているかということを反映していることにつながっています。
著者が40年ほど前に木炭の化石について研究を始めたころにはそれについての論文もほとんど見られませんでした。
そんな中で木炭の化石についての研究を様々な方向から進展させていったのですが、木炭の化石というのは実はその当時の山火事で炭化した植物がそのまま化石化したというものでした。
植物が土に埋もれて化石化するような場合は植物組織が大きく崩れてしまうことが多いのですが、木炭化石は極めて短時間に植物組織が炭化しそのまま化石化するために弱い組織でもそのまま形状が保持されていることがあります。
植物の花の化石なども残っていますが見事な形が保持されています。
ただしそれを明らかにする研究手法というものは少しずつ整備されてたもので地道な研究努力が重ねられたものでした。
石炭の中に木炭化石が埋もれていることが多いのですが、石炭層を酸などで徐々に洗い組織を取り出したり、石炭層そのままで解析したりといった新手法が取り入れられていったそうです。
火事が発生するためには、燃えるもの、着火源、酸素の三要素が必要です。
燃える植物がまだなかった4億2千万年前以前は火事というもともありませんでした。
しかしシルル紀以降大きく成長する植物が発生し、さらにリグニンを含むことにより樹木を形成するようになりました。
着火源はよく言われるような火山である場合は少なく、いつの時代でも落雷が多かったようです。
そのような原因で起きる山火事の結果、植物体のまま炭化して木炭化石となるのですが、それは多くの場合石炭の中に含まれます。
現在の泥炭の中の木炭は平均4%程度なのですが、石炭に含まれる木炭化石の割合は石炭紀とペルム紀には高く20%以上、時には70%に達する場合もありました。
一方三畳紀の石炭にはあまり含まれていません。
その当時に植物が多かったり少なかったりしたということではなく、火事が多いか少ないかを明確に反映していたのでした。
そしてそれがその時代の大気中の酸素濃度の推定にもつながりました。
石炭紀やペルム紀には酸素濃度が30%近くになることもあったのですが、三畳紀には一時的に酸素濃度が低下し18%程度まで減っていたのです。
このように頻繁に山火事が起きる状態であると、植物自体も火災に強いような遺伝的性質を得るようになります。
なるべく硬い組織としたり、また燃えてしまった後に残った種子から素早く生えるような性質をもった植物が生き残るようになります。
これには時代の差もあるとともに、地球上の位置の差も大きく影響します。
現在であれば山火事の多い地域は熱帯雨林を挟んだ地域なのですが、そこで生育しやすい植物はその耐火性の性質が強いとも言えます。
ただし現在のように生物の移動が激しく外来生物の繁茂が頻繁となると山火事の発生の増加にもつながってきます。
耐火性の植物は火事を引き起こしやすいということがあるようで、これまで山火事の少なかった地域で多発する要素ともなりえます。
海外の山火事の発生で人家が火に包まれる映像がよく見られますが、そこには山火事の多発という問題以上に、これまで人が住んでいなかった森林の中に家を建てるという風潮が強まっていることも原因として大きいということです。
いろいろと知らないことを知ることができました。
著者は植物化石から古代の植物を研究する古植物学の世界的権威ということですが、そこから現代の人類の生活まで関わってくる問題が見えてくるという面白さが感じられました。