爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ドードーをめぐる堂々めぐり」川端裕人著

ドードーといえば最も有名な絶滅鳥とも言われています。

インド洋の孤島モーリシャス島にのみ生息していたのですが、ヨーロッパ人が上陸し発見されてからわずか後には絶滅してしまいました。

その間、わずかな観察例がありまた数羽が捕獲されヨーロッパやインドなどにもたらされましたがすぐに死んでしまい完全な剥製を残すことも無く失われてしまいました。

しかしルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」に取り上げられその挿絵のイメージが世界中に広がってしまいました。

この絵を描いたのは画家のジョン・テニエルで、その高慢で滑稽な姿が印象的です。

ところが実際のドードーがどのような姿だったのか、それもよく分かっていません。

いくつかの観察者の残した絵がありますが、それも様々です。

また骨格標本というものも不完全なものしかありませんでした。

 

そして、なんとこのドードーが日本に来ていた可能性があるのです。

最近の発見ですが、オランダのリア・ウィンターズという画家・歴史家でアムステルダム大学の図書館員でもある人物がオランダの国立公文書館に保存されている歴史資料を探索するうちに出島の商館長日記の中に1647年にドードーが出島に来ていたという記録を見つけたそうです。

それを見た本書著者の川端さんが日本側資料を探索しそのドードーがどうなったのかを調べました。

 

1647年はすでに鎖国体制が完成しており、オランダのみが長崎の出島に商館を構えることが許され、商船を運行させていました。

その船には様々な商品が積み込まれましたが、珍しい鳥獣なども運ばれることがあり、ラクダ、ヒクイドリ、オウム、ジャコウネコなどが持ち込まれました。

こういった鳥獣は将軍や有力大名などに高価で買い取られました。

ただしあまり大きな獣は後の飼育も大変なので鳥が好まれたようです。

その中の一つとしてドードーという文字が見られました。

しかし、出島に持ってこられたという記録があるものの、その後は全く文字に現れません。

ドードーはどこへ行ったのか。

もしも将軍や大名に買い取られたのならその記録は必ず残っているはずです。

出島で飼育している間に死んでしまったのか。

実はこの頃は日本としても色々と騒ぎがあり簡単な状況ではありませんでした。

幕府の許可を受けないままオランダは船で日本各地を探検しており、その船が日本側によって捕獲されるというブレスケンス号事件ということがあり、それが完全には解決していない状況でした。

さらにその年にはポルトガルがスペインからの独立を果たしたということで、日本への入国を求めて船を派遣しそれが長崎に入港する事件が起きています。

それに対し幕府は各大名に軍勢の派遣を命じ長崎に集結させていました。

ドードーを積んだオランダの商船ヨンゲン・プリンス号が出島に到着したのはまさにポルトガル船との緊張が高まっている時だったのです。

そのため江戸への商館長の訪問および動物を含む品物の持参も遅れてしまいました。

その時に連れて行った動物については色々な文献で名前が挙がっていますが、その中にドードーはなくやはり出島で死んでしまったという可能性が強いようです。

 

ドードーをめぐる堂々めぐりはこれだけでは終わらず、世界的にドードーに関係の深い場所をあちこちと訪ねます。

ドードーが住んでいたモーリシャス島は言うに及ばず、そこから運ばれた数か所、オランダやイギリスも訪れ研究者などに面会していきます。

オランダは最初にモーリシャス島を発見し、そしてオランダが統治している間にドードーが絶滅してしまいました。

いまだにオランダ人の中にはそのことについて悔恨を持つ人が多いようです。

イギリスにも一羽がもたらされました。その詳しい経緯は分かっていません。

しかしほどなく死んでしまいオックスフォード大学にその標本は保存されます。

しかし当時はまだ保存技術が進んでおらず、剥製も長期保存可能なものではなかったため、ほどなく劣化していまいます。

燃やされるところだったのですが、わずかに頭部と脚のみが切り取られ残されました。

 

その鳥を描いた絵が残っていたのですが、それを参考にしてアリスの物語に使ったのがルイス・キャロルだったそうです。

ただしその形態は実物とは少し違ったもののようです。

 

近代になってドードーの骨などが残っていないか、モーリシャス島で発掘を行なう人々が多数いました。

なかなか見つからなかったのですが、そのような専門家ではなくモーリシャスに移住して美容師をしていたチリューという人物が散歩の途中に偶然発見したものがドードーの骨だと確認されました。

チリューの発見物については細かいデータが残されていないのですが、その見つかったとみられる付近の捜索は今でも続けられているようです。

 

今後も新発見があるかもしれません。

ただし、それで得られる知見はこれまでのドードーのイメージを大きく崩してしまうこともあり得るようです。