コロナ禍を契機に仕事をオンラインでこなすということが普通のようになってきました。
緊急事態だとはいえ、まったくオフィスに顔を出すことなく仕事をしているということが多くの人で実現してしまいました。
ただし、それが人間の脳の働きにどのような作用をするのか、まだはっきりしていないようです。
本書著者の川島さんは東北大学加齢医学研究所の所長で脳科学が専門ということですが、現在のような状況でリモートワークばかりで人との接触がなければの脳の働きにダメージが出ると主張しています。
著者はMRIの原理を応用し脳の活動がある部分で盛んになっているかどうかを測定する装置を開発し、それを対面での会話、リモートでの会話の状況で測定してみました。
対面で会話していると数名であっても徐々に脳の活動が同じようになっていく、同期という現象が出てきます。
しかしリモートではそういったことが起こらず、脳活動上からはボーッとしているのと同じだということです。
これがオンラインコミュニケーションの致命的なリスクであり、その悪影響は大きいものだということです。
対面での会話の場合、常に相手の視線を意識することがあります。
これは人が動物であった頃からの習性から続いており、野生の場面では相手の視線が自分に向けられるということは襲われるサインでもありました。
そのため、視線を常時監視していくということが脳の働きを活性化させていきます。
これが無いオンラインコミュニケーションの場合はその働きも無いままです。
なお、「相手の視線に反応」というのは、町ですれ違う不良をしっかりと見ればすぐに理解できることです。
学校の生徒、学生へもオンライン授業というものが行われることになりました。
しかしそれによる学力の低下がはっきりと出ているようです。
これがそのような状況で仕方なく出るものとも言えますが、それよりも「オンライン・スマホ」の悪影響と見るべきだということです。
スマホでは「スイッチング」ということが普通に起きます。
何かを見ていても他の情報が割込み、それの方が重要と思えばそちらに切り替えるということが頻発します。
これが子どもの脳の働きに悪影響を及ぼすということです。
リモートワークでは会社の業績が悪くなるということは、鋭敏な経営者は徐々に感付いているようです。
それに対し「オンラインにすれば色々コストも削減できる」などと言って無神経に取り入れている企業とでは業績に大きな差が出てくるのでしょう。
色々と著者の研究成果も紹介され、自説を展開されていますが、その実験の妥当性には少し疑問もありそうですが、大方の主張には一面の真実があると思わせるものでした。