爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「一冊でわかる タイ史」柿崎一郎著

タイは「微笑みの国」などと呼ばれることもありますが、その割には反政府運動が起きているという話も聞きます。

また植民地化を免れた国であり国王が尊敬を集めているということも聞いたことがあります。

しかしその歴史といったことはあまり知られていないようです。

この本ではそれが「一冊でわかる」そうです。

 

本書「はじめに」に書かれていますが、「タイの特徴の一つがその巧みな生存戦略」だそうです。

アジアで植民地化を免れて独立を保った数少ない国の一つですが、その歩んできた道は日本とはかなり異なり、うまく大国間のバランスを取り立ち回ることによって可能だったということです。

 

また「タイの4つのひみつ」と挙げられており、400年前の日本人山田長政がタイ王の朝廷で最高位にまで上がったこと、タイの国土は決して決まっていたものではなく、もっと細長い国になったかもしれないこと、第二次世界大戦では日本と同盟を結び戦ったものの裏ではうまく立ち回り戦後には敗戦国とは扱われなかったこと、2001年に首相になったタックシンは実業家で大富豪であったことがそれです。

まあ、それが頭に残っていれば良い方でしょうか。

 

タイには原人も住んでおり、70万年前の石器も発見されています。

1万年ほど前からは新人も住み、さらに紀元前2500年頃には水田での稲作も始まりました。

紀元前2世紀ころになると中国とインドを結ぶ海のシルクロードと呼ばれる交易路が確立し、その中間の寄港地として港が成立し初めての国家ができました。

これらはインドの影響が強く、ミニインドと言えるものでした。

6世紀の中国の歴史書にはドヴァーラヴァティと呼ばれる仏教国の記録が残っています。

その主要な民族はモン人であったと見られます。

7世紀になるとクメール人がタイ北東部から勢力を伸ばし、カンボジアに真臘という国をたてタイも含んだアンコール帝国を作ります。

しかしその後中国南部に住んでいた現在のタイの主要民族のタイ人が漢民族の圧力を受けて南下を始め、13世紀になるとタイに入ります。

その頃にできたスコータイという王国が現在のタイの起源とされています。

 

その後アヨータヤー家がスコータイに代わって王家を継ぎアユタヤ朝となります。

しかしその当時はビルマが強勢となりそれに従わざるを得ない状況でした。

さらにヨーロッパ各国が進出、日本人もやってきて勢力争いを繰り広げます。

山田長政が活躍したのもこの頃でした。

 

王家はさらにトンブリー朝からラッタナコーシン朝へと移り、ラッタナコーシン王朝が今に続いています。

ラッタナコーシン王朝の王は代々ラーマを名乗り、初代のラーマ1世が18世紀、現在のラーマ10世まで続いています。

有名なのが19世紀のラーマ4世でしょうか。

モンクット王とも呼ばれるのですが、自分の子どもの家庭教師としてイギリス人女性のアンナ・レオノーウェンスを雇いますが、彼女がその経験を書いた小説を基に映画化されたのが「王様と私」です。

この小説の中では王様は野蛮なものと描かれていますが、実際のラーマ4世はタイでも有数の知識人でした。

 

植民地化を免れたのは、当時のインドシナ情勢でベトナム側から勢力を広げたフランスとインド側からのイギリスの直接対決を避けるための「緩衝国」とされたのがタイだったためです。

そこにはタイ側からの工作もあり、タイという国の上手い戦略の成果だったようです。

 

最近は王家への尊敬はあるものの、民主化の運動や反動も多く政情は安定していません。

一方では産業化も進み中間層も増えています。

ただし経済成長は政情不安のせいで少し停滞気味ということです。

中進国のまま止まってしまうのかどうか。

これからも目が離せない国ではあるようです。