科学の多くの分野について分かりやすい解説を書かれている佐巻さんですが、今回は「ニセ科学」を扱っています。
この本では特に医療や健康についてのものに絞って書かれています。
そういった分野では場合によっては生命に関わる場合もあり、ニセ科学に引っかかったがために多額の金を失うばかりでなく、死亡してしまうといったこともよくあります。
そのような実例を数多く紹介していますが、中には多くの人が「ニセ科学」であることすら知らないまま、相変わらずテレビなどで紹介されているものもあります。
扱われているものは、抗ガンサプリ、健康食品・サプリメント、ダイエット法、ホメオバシー、血液サラサラ、経皮毒、足裏デトックス、食品添加物の危険性、水のクラスター、磁石水、アルカリイオン水、「ありがとう」と水の結晶、マイナスイオン、ゲルマニウム、プラズマクラスター、除菌グッズといったものですが、最後に「最も危険なニセ科学」としてEM菌が挙げられています。
最初にニセ科学で生命を縮めた有名人としてスティーブ・ジョブズと絵門ゆう子の例が挙げられています。
どちらも癌にかかったのですが、西洋医学に不信感があり手術をすれば延命できた可能性が強かったにもかかわらず代替医療に時間を費やして手遅れとなってしまいました。
彼らが信じた代替医療はニセ科学としか言いようのないものですが、多くの人がそれを選んでしまいます。
癌は寿命が非常に伸びた現代では多くの人が罹患してしまうことがあるのですが、そのためもあり多くのニセ科学の食い物となっています。
そういった治療法は日本でも多いのですが、はるかにはびこっているのがアメリカです。
ジョブズが信じたのもそういった中のゲルソン療法というものでした。
果物や野菜などを大量に食べ、毎日コーヒーで浣腸するといったものでした。
健康食品・サプリも大盛況です。
明確な効果は無いにも関わらず、「個人の体験談」と称するものを流して効くかのようなイメージを持たせて高価なものを買わせています。
効果がないばかりか、有害なものすら存在し、特に肝臓障害を起こす被害が繰り返し報告されています。
グルコサミン、コンドロイチン、ヒアルロン酸、DHA、EPAなど、化学物質の名前はどこかで聞いたことがあるでしょうが、これらも確実な薬効があるわけではありません。
しかし繰り返し流される宣伝であたかも効果があるような気にさせられて、高額な商品を買わされています。
なお、この問題については特定健康食品(トクホ)や機能性表示食品などの国の制度も大きく関わっているはずですが、この本ではそういった所はあまり触れていませんでした。
国を相手に批判を繰り広げるまでの意志は佐巻さんはお持ちではないのでしょう。
ダイエットも無数とも言える方法が次々と出現してきますが、痩せた方が健康的だということは全くないようです。
寿命とBMIの関係では、従来言われていたように「小太りが最も長生き」よりさらに太めの方が長寿という結果が出ています。
極端に痩せている人は確実に病気にかかりやすく、早死にすることもあるというのに、不自然で不健康なダイエット法が横行しています。
この本は2017年出版でコロナ禍前のものですが、コロナ禍を通して以前よりさらに強くなったのが「抗菌グッズ」の売り込みでしょうか。
しかしこの本の中でも「抗菌」の危険性について触れています。
自然界では菌が生きている状態の方が普通であり、「無菌状態」などあるはずもありません。
そんな中で無理やり除菌・殺菌すればどうなるか。
その空いた隙間を埋めようと生き残った菌の増殖競争が始まります。
それまでバランスのとれた共生状態であったものが、増殖速度の速い菌が優勢となりますが、それが良い菌である保証もなく、悪くすれば病原菌が多くなる危険性もあるわけです。
こういったニセ科学に引っかからないようにするためにはどうしたらよいか。
科学的に正しい知識を得るというのは、なかなかできないことでしょう。
そこで著者が薦めているのが、ある「キーワード」に着目するということです。
本当に科学的であるなら絶対に使うはずのない言葉が出てくるようなら、その話全体がニセ科学であることが多いということです。
それは、「波動」「共鳴」「抗酸化作用」「クラスター」「エネルギー」「活性/活性化」「免疫力・自然治癒力」「即効性」「万能」「天然」などです。
これらの言葉が出てきたら(しかも複数)かなり怪しいと思った方が良いということです。
こういった本をそもそも読もうという人は、おそらくすでにニセ科学を見分ける能力があるでしょう。
それが無い人をどうするか。そちらが問題となります。
はやりある程度の行政の規制が不可欠なのでは。
逆に後押ししているような行政ではどうしようもありません。