この本も題名の印象と内容とに少し差があるようで、読後感ははぐらかされたように感じるものでした。
資本主義の変質というものに主題があるのかと思ったら、どうやら中国の急激な強力化と日米と中国との関係の変化という方に力が入っていたようです。
とはいえ、著者は東大卒業後通産省に入省、海外留学を経て政治思想を学び評論家として独立したということで、政治経済全般にわたり広く持論を繰り広げています。
最初の章では並みいる経済学者や経済政策担当者などの経済理論を片っ端から全否定、現在の混乱はすべてその誤りのためだということです。
そして中盤から中国の急激な発展、その戦略の特質など、さらに軍事費も急増しており日本はもちろんアメリカも軍事的に対抗できなくなっているということを示しています。
それにもかかわらず、日本だけでなくアメリカでもまだ中国の脅威についての認識が甘い人が多いと嘆いています。
リーマンショック、そしてコロナ禍と西欧資本主義にとって大きな試練が次々と襲い掛かっているのですが、それらに対して各国とも大規模な財政出動を行なっており、これはすでに資本主義とは言えなくなっているのではないか。
国の関わりが非常に強まっているので、形式ていきなすでに社会主義化しているのではないかというのが題名の意味となります。
(もちろん、社会主義と言ってもあの壊滅したソ連などのものではありません)
新自由主義を否定し大規模な財政出動を伴う政策にアメリカを始め各国が踏み出しているのですが、「従来であればこういった大規模な財政出動による財政赤字の拡大はインフレを招いたり金利の高騰を引き起こすと言われていた」ものの、そうはならないという主張のようです。
どうもこれはハズレのようですが。
その目指す路線は「新自由主義」から「経済ナショナリズム」へということです。
これは中国などに対抗するための国力を付けるためにも必要なことです。
中国はすでに軍事的にも技術的にも十分にアメリカに対抗し打ち克つ程度の力を蓄えており、それに対するには国策としてすべての面で力を付ける(軍備のみでなく)必要があるということです。
アメリカの取る政策の中でも最も怖いのは台湾の中国領有も認め、日本や韓国からも軍隊を撤収し太平洋の西と東に中国とアメリカが分れるという動きだそうです。
日本は見放されるということでしょう。
ただし、さすがに中国の強力化は一本道に進むわけではないとも述べています。
これまで中国は「輸出主導重商主義」というレジームで成長してきましたが、これはもはや継続不可能となり、「内需主導」に転換していかなければなりません。
しかし果たして共産党一党独裁の中国でそのようなことが可能かどうか。
簡単には行きそうもありません。
日本の取るべき道は「統治能力」を高めていくしかないそうです。
そこには防衛費を大幅に増やしアメリカとは別の軍事力を備え、産業分野でも中国を上回る力を付ける必要があるということです。
現実には防衛費は増やそうとしているものの、それはアメリカの軍事力の補完でしかないようですが、それではまずいのでは。
どうも著者の望む方向とは違う方へ日本は向かってしまっているようです。