植物でも生存競争は熾烈であり、様々な戦略でより生育範囲を広げようとしています。
そういった樹木の生き残り戦略を、19種の樹木について解説しています。
その性質によりグループ分けして示されていますが、第2章「撹乱を利用せよ」で取り上げられている、ドロノキ、ヤマツヅジ、ミヤマハンノキといった樹木は火山噴火や水害、土砂崩れといった災害で植物も根こそぎ全滅してしまったところに、いち早く生育を開始することで他の植物に先んじて場所を確保しています。
また、第3章「人の営みに翻弄されて」や第4章「生き物たちとのお付き合い」での、ズミやウラジロガシ、ハゼノキと言った樹木は人間や動物、昆虫などとの相互関係で生育を盛んにするという特技を発揮してきました。
第5章「気候の変化を生き抜く」ではアカエゾマツ、ウラジロモミなどが大きな気候変化の中で生き抜いてきた様子が描写されています。
そこには植物の姿を見るだけでは見落としてしまうような、生き残り戦略の精妙さが存在しており、驚かされるほどです。
常緑広葉樹であるヤマグルマは、他の同類の樹木が通常は温暖な地域に生育するのに対し、例外的に高地や冷涼な土地に生育します。
落葉しない常緑広葉樹は冬場にも葉を落とさないのですが、気温が低くなると光合成もできなくなり、また凍結する場合には葉の細胞も凍結して破壊されることもあります。
また、土壌も凍結すると水不足になりそこで葉をつけているとさらに水分が蒸発して乾燥してしまうことにもなり兼ねません。
しかしそこをヤマグルマは体の構造を変化することで対応しました。
広葉樹は水輸送を道管という水を通すパイプで行なうということで、仮道管しかない針葉樹より効率的に水輸送ができるように進化が進んでいます。
ところが、ヤマグルマは広葉樹でありながら仮道管を持っています。
仮道管は道管よりも水輸送の効率は悪いのですが、道管では特に寒冷期にはキャビテーション(泡の混入)が起きて水を吸い上げられなくなるという欠点があります。
そのために広葉樹でありながらヤマグルマは仮道管を持つように進化してきたと考えられています。
九州のツツジの種の中でももっとも有名なのはミヤマキリシマでしょう。
雲仙や阿蘇、霧島などの火山の上部でよく見られます。
ミヤマキリシマの祖先はヤマツツジですが、火山という環境に適応するように進化してきました。
火山の上部で頻繁に噴火の影響を受けるところではミヤマキリシマが生育しており、山麓の森林地帯にはヤマツヅジが生育しています。
噴火により火山噴出物、降灰、火山ガスが発生し森林は破壊され、さらに土壌は酸性が強くなります。
通常は植物の生育には向かない環境なのですが、こういったものにも強いのがミヤマキリシマです。
ミヤマキリシマにとっては、火山噴火というのは他の競争相手の樹木を消してくれる生育分布拡大のチャンスなのです。
しかし火山噴火がしばらくおさまり数十年・数百年経つと徐々にヤシャブシやアカマツの生育が進み、さらに時間が経つとブナやミズナラの森となっていきます。
そうなると日陰に弱いミヤマキリシマは徐々に消えていくそうです。
実際にこのような現象が九重火山群の大船山で見られ、天然記念物にも指定されていたミヤマキリシマ群落がこの50年で激減してしまったそうです。
動物の生存競争は弱肉強食とも言われるように厳しい印象ですが、植物の生き残りも結構大変なようです。