山での遭難の原因で一番多いのが「道迷い」であり、またその他の原因として滑落などとされているものでもその発端は道迷いから生じることが多いそうです。
現代ではGPS装置の普及やスマホの発達で、「ナヴィゲーション技術」などは要らなくなるのではという声もありますが、実際にはそのような機器類もあくまでもナヴィゲーションの手段として用いるべきものであり、基本的な知識や技術は十分に身に着けておくべきものだということです。
著者の村越さんは山岳ナヴィゲーションというものを大学で研究されているということで、また共著者の宮内さんはオリエンテーリング競技で全国優勝も果たしたということです。
道迷いによる遭難を少しでも減らしたいという思いでこの本を書かれています。
ただし、非常に専門的な内容であり登山やオリエンテーリングといったものに縁のない人にとっては分かりやすいものではありません。
その用途に使いたい人には非常に有益な本でしょう。
内容は、ナヴィゲーションの基礎からそのための用具の説明、ナヴィゲーションのための読図(地図を読むこと)の基礎、さらにコンパスの使い方と進み、そして登山の計画を最初に十分に練っておくことが大切ということで、「プランニングと先読み」
さらに「現在地の把握法」「ルート維持」といった専門的な内容になります。
最初に書かれていることで興味深いのは「地図を読むことがナヴィゲーション」ではないということです。
著者は一般向けの読図講習会などを開くことがあるそうですが、その受講生の中には「必死に地図を見る」人が少なくありません。
しかし実際に目的地に到達するためには、「現在地の把握」「ルートの維持」が不可欠です。
そのためには、「地図を読む」ことだけでなく「風景を読む」ということを意識して行わなければならないそうです。
登山用に用いられる地図は、かつては国土地理院の地形図だけでしたが、最近では登山用に作られた地図がかなり使われるようになっています。
地形図は現在では空中写真をもとに作られており、どんな深い山の中のものでも空中写真に写るものは記載は信頼できます。
しかし、地形図の一番の弱点は「道の信頼性」だということです。
地形図は15年ごとに改定測量が行われていますが、現在は林道の建設がさかんで地図の更新が追い付いていません。
また、幅員1.5m以下の徒歩道については地形図はほとんどあてにならず、空中写真には徒歩道は写らないことが多いことや、植生界の境界が道と見えることも多いなど、地図には徒歩道として載っていても歩けない例が多いということです。
登山用地図は地理院地形図をもとに専門家の情報を入れ込んで出版社が作ったもので、ルートなどは間違いのないものとなっています。
また使われている紙も合成紙で水濡れにも強いものです。
ただし、扱われている地域は登山者に人気のある所に限られているということはあります。
ナヴィゲーション技術という点で見ると、低山(里山)と高山では対照的です。
登山の技術としては高山の方がレベルが高いのですが、ナヴィゲーションについていえば低山の方が難しい場合が多いようです。
尾根や谷が複雑に絡み合い地形的に難しいこともあり、また人里が近いために作業道のような地図に無い道が複雑に交錯していたりします。
実際に道迷いによる遭難は低山で多く発生しています。
もちろん高山の難しさはまた格別のものであり、霧や雪による視界不良の発生も低山よりはるかに多く、またひとたび道を間違えれば転落や滑落で命を落とす危険性も高くなります。
自分にはあまり縁のなかった専門書ですが、ところどころに参考になる記述があり面白いものです。