爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「生死を分ける、山の遭難回避術」羽根田治著

山岳関係のライターということですが、遭難防止についての本を多く書かれている羽根田さんが分かりやすく山岳遭難回避について解説しています。

 

山岳遭難事故は増え続けていますが、これにはかつて若い時に登山をしていた人たちが現役引退して時間ができたため夢よ再びと登山を再開したが、身体がついていかずに無理をしてという例や、若い女性などがブームに乗って登り始めるものの知識も体力もなく遭難してしまうということが原因のようです。

 

事故の原因別の集計を見ると、「道迷い」によるものが圧倒的に多いそうです。

それに次いで、滑落、転倒、病気、疲労となっています。

 

道迷いは登山の基本である「地図とコンパスで現在地確認」をしていけば起こらないはずですが、その基本を身につけていない人が多いようです。

また「迷ったら引き返す」というのが鉄則なのですが、それも分かっていないのでしょう。

また、疲労・病気というのは中高年の登山者に多いようで、体力の現状認識ができていないことや身体に何らかの危険因子を抱えているということがあります。

事故例として挙げられた例では、大学時代の山岳部仲間3人のパーティで北アルプスに出かけた70代男性が途中で腹痛で歩きにくくなり、結局3日目にようやく下山して病院に搬送され、虫垂炎と分かって緊急手術をしたものの、多臓器不全となり死亡したそうです。

通常の町中の生活では虫垂炎で手遅れになって死亡ということはまず起こりませんが、山の上では救急車で搬送もできず時間がかかってしまうこともあります。

 

中高年になって登山再開という人は登山パーティーを組む仲間も身近にいないため単独行をすることが多くなります。

しかし単独行での事故発生率はパーティー登山の場合の2.3倍ということで危険性が増します。

さらに事故が起きた際の連絡もできないことが多いため、怪我をしても重症度や致命度が高くなってしまいます。

気ままに一人で山を楽しむという雰囲気に魅せられ、気軽さからも単独行での山歩きをする人が多くなっていますが、非常に危険なことのようです。

さらに、行先を家族にも告げず登山届も出さないままということが多く、どこへ行ったのかも分からないまま警察に届けても捜索に苦労するということになり、手遅れになる例もあります。

せめて予定はきちんと分かるようにしてもらいたいものです。

 

最近ではスマホのアプリやハンディGPS装置が発達していて自分の現在位置がわかるから大丈夫と考える人が多いのですが、こういった装置はバッテリーの消耗が速くいざという時に全く役に立たないことがあります。

やはり登山の基本である「地図とコンパス」の使い方にきちんと習熟しておく必要があるようです。

なお、これを誤解している人も居ますが、「迷ってから地図を見る」のでは遅く、「常に地図とコンパスを用いて現在地を確認しながら歩く」ことが必要です。

休憩時や見晴らしのいい場所、分岐点など要所要所で現在地を確認する習慣をつけるべきです。

 

昔の登山経験者が今度は家族を連れてという例もあります。

しかしこういったパーティーは体力も経験もバラバラで、歩く速度が大幅に違うために「先に行ってて」ということがあるようです。

これは非常に危険なことであり、それではぐれてしまい道に迷ったり、滑落したのに気づかず見失ってしまうということも頻発しています。

これも「もっとも遅い人に合わせて歩く」という基本を順守する必要があります。

 

登山の本を読むことだけは好きな私ですが、実際には登山経験はほとんどありません。

やはり山は遠くから眺めて楽しむのが一番です。