タックス・イータ―、すなわち税金を食い物にする人々。
日本の財政は極めて厳しい状況にあるとは言われていますが、実際にはそれを食い物にしている人々のために相当な割合の税金が無駄に(あるいはごく一部の人々のためだけに)消費されています。
著者の志賀さんは大蔵省に入省以来税務関係を歴任、その後は他分野の行政にも関わり、そのような国の財政の問題点については熟知しています。
そういったタックス・イータ―の、生まれてきた起源、それはどんな連中か、その手口、行政改革との関係、さらに日本だけではない世界的なタックス・イータ―、といった内容を説き明かしていきます。
読んでいて腹が煮えかえるような思いになるのですが、しかし私もそういったことはあまり知らなかったことです。
この「国民が知ろうとしない」ことがこういった連中の跋扈を許している最大の要因であり、皆がしっかりと考えていくことが必要な事です。
日本の納税制度は給与所得者の源泉徴収と年末調整というものの比率が非常に高く、国にとっては便利にできていますが、納税者の意識が低いままだということが難点となっています。
納税者がしっかりと納税について考えることが、税の支出についても厳しい見方をするために必要な事であり、それが無いためにやりたい放題を許すことになっています。
さらに政治に携わる者たちもそういった行為を止めるという方向には向かわず、自らもそのおこぼれにあずかることばかりを目指すことになっています。
著者が何度か書いているように「暗澹たる思いになります」というところでしょう。
タックス・イータ―の最たるものが「鉄のトライアングル」と言われるものです。
これは、「族議員」「官僚」「関連業界」から成っています。
自然発生的に形成されてきたようですが、究極の形で完成されたのが田中内閣の頃でした。
このトライアングルはそれぞれにメリットをもたらします。
族議員にとっては業界団体は集票機関でありさらに集金機構でもあります。
官僚にとっては族議員は法律の国会通過の助けや予算獲得の援助が期待され、関連業界は天下り先として重要なものです。
関連業界は予算では補助金獲得、さらに税制で租税優遇措置の獲得、自らに有利な法規制を作らせるという意味で旨味がありました。
そこには国民の利益を考えるという考えは全く無く、族議員は自らの権勢と私利私欲、そして支持者への利益誘導、官僚にとっては国益よりも省益および自らのキャリアパス、関連業界にとっても収益を増すといった利益が得られました。
タックス・イータ―が付けこむ隙というものは、国の財政に関わる全ての部分にあります。
まず、予算は言うまでもなく、さらに財政投融資、そして租税回避を目指すことで税から直接食い散らかすこと、さらに国債を手段とするなどありとあらゆる方向から旨味を見つけ出します。
こういったタックス・イータ―に対して、それを少しでも制限しようとするのが行政改革でした。
その実質的な始まりは土光敏夫が会長であった臨時行政調査会によるもので、1981年に発足しました。
その後も行政改革は次々と実施されていったのですが、ほとんどのものは失敗しました。
その対象がそれを実施すべき官僚だったのですから、当然と言えば当然でしょう。
小泉行革では郵政民営化が華々しく実施されました。
これの本当の意味は郵貯と簡保の莫大な資金が財政投融資として壮大な無駄遣いに費やされているのを資金の入り口でストップしようというものでした。
一応の民営化は成し遂げ、郵政選挙で郵政族という議員たちの力を根こそぎにしたことで成果は半分ほどはあがったかもしれませんが、今でも政府が持ち株会社の株式を全数保有しており実質的には変わっていないのかもしれません。
タックス・イータ―というのは別に日本だけの問題ではない、というかはるかに大きなものが多国籍企業であり、その強大なものは世界のどこの国にもほとんど税金を支払わずに莫大な利益を上げています。
その各社にはその節税対策だけのために優秀な法律家などを多数抱えており日夜その仕事に邁進しています。
もったいない資源の使い方と言うべきでしょう。
なお日本にも規模は小さいもののそういった多国籍企業の性格を持つように志向している企業があり警戒が必要です。
このようなタックス・イータ―を制するにはどうすれば良いか。
とにかく、国民のすべてがこのような仕組みについての正確な知識を持ち、その問題意識を持つことです。
ただし、情報がほとんど開示されていないのも官僚の作為のためです。
国の財政も予算として示されているものはほんの一部に過ぎません。
社会保障費は一般会計で30兆を越えており増加の一途をたどると言われていますが、実際には関係するものを合計するとすでに100兆を越えているということです。
国債などの政府長期債務残高は1010兆円と言われていますが、これも簿外債務がさらい1500兆円もあるということです。
こういったすべての数字を誰もが見えるようにしなければ正確な見通しも立てられないのですが、それを妨害しているのも官僚です。
現在でも一応の会計検査院というものは置かれていますが、その実力はほとんどありません。
やはり欧米のように強力な会計の捜査力を持った機関を置く必要があるのでしょう。
最後に、ある人のことばとして「今のような日本の財政や経済の状況は、戦争でもしなければ解決しない」というものが紹介されています。
もはや平和的な方法ではどうしようもないほどに日本の財政状況は落ちてしまっているのでしょう。
私も「暗澹たる思い」になります。