爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「グローバル・タックス 国境を超える課税権力」諸富徹著

グローバル企業と言う、国境を越えて活動する超大企業がさらにその権力を強めているにも関わらず、それを統制し課税すべき国家と言うものはいまだに一国の国境の中だけに留まっていては、企業のやり放題は止めようもありません。

 

しかし、「トービン税」という考え方があることを知り、何とか国際協調で課税を実施できないものかと、素人ながらもあれこれと考えていました。

 

それがさらにコロナ禍で必要性が増大する中、岩波新書の新刊に経済学者諸富さんが「グローバル・タックス」という本を書かれているのを見つけ、非常に心強いものを感じました。

 

本の内容はまさに「国境を超えた課税権力」を打ち立て、何とかグローバル大企業から税金を取り立てようというものです。

 

まず最初に、グローバル・タックスについては、トービン税など各国間の金融取引に課税するものだけにとどまらず「自国の課税権の範囲内だけでは自己完結しない税について新たに国際ルールをつくり、各国が協力して実施していく」ものと捉えたいという、非常に意欲的なものだとしています。

 

1980年代以降本格化した経済のグローバル化は、いまだに国民国家の体制に留まる国家の課税権限などは飛び越えた状況を作ってしまいました。

タックス・ヘイブン」という極端に税率の低い低課税国に中心部を移転させ、様々な手法で利益をそちらに集めることで、ほとんど納税をしないというグローバル企業が横行しています。

それに対抗するために、「租税競争」という「他国よりも低い法人税率として海外企業を誘致しよう」とする動きが世界各国で強まりました。

その結果、かつては60%以上もの税率であったものが、軒並み10-20%といった低税率になってしまいました。

これで減少した税収を確保すると称し、消費税率の上昇や労働所得への給与税などを増やすという傾向が強まり、税負担の資本から労働へのシフトということが広く行われています。

 

多国籍企業の利益移転と言っても、タックスヘイブンに置いた会社に単純に利益を送付するといったことは不可能です。

そういった行動に対してはどの国でも非常に高い課税をするような体制になっています。

しかし、彼らの手法はそのような取り締まりなど簡単にかいくぐるものです。

もっとも多いのは、知的財産やブランドなどの「無形資産」をタックスヘイブンの会社に格安で移籍し、それを使って高額の特許料やブランド使用料を他国の子会社から振り込むという形で集めるというものです。

そのような無形資産というものは、市場価値というものがはっきりしないので、たとえ破格の安値であってもそれを取り締まることは難しくなります。

このような実例として、グーグル、スターバックスの例が記されています。

 

このような利益移転により、研究者の推計によればEU法人税収の7.7%、アメリカと日本では10.7%が失われているということです。

 

このような租税回避は、グローバル超大企業だけの力で行われているのではありません。

すでに「租税回避産業」と呼ばれるコンサルタント業が成立しており、世界各国で25万人もの人々がその作業に従事しているとか。

彼らは租税回避作業だけでなく、政府に対してのロビー活動も盛んに行っており、アメリカ政府もその影響を強く受けています。

 

しかし、かつてはグローバル課税というものに対して反対していたOECDも国際課税ルール見直しという傾向を見せており、さらにGAFAなどの大手デジタル産業に対するデジタル課税という動きも探られています。

特にフランスなどヨーロッパ各国がその動きを強めており、それに反対するアメリカのトランプ政権との制裁競争にまで発展しています。

 

OECDは急ピッチで検討を進めており、国際課税ルールの見直しという統合提案を2019年には提示しました。

まだいろいろな方策の提示があり、実施までには相当な年月が必要でしょうが、動き出しているのは事実です。

しかし、多国籍企業がもっとも多く、その資金の流入も多いアメリカ政府がそれに対して反対を強めています。

 

このような国際課税というものを進めるためには、これまでのような各国独自の税制展開では上手く行きません。

EUの取り組みというものがその参考になりそうですが、やはりある程度各国の主権を制限し共通のネットワーク型課税権力というものが必要になりそうです。

 

このような国際間のルール検討は、通常であれば非常に難しく時間のかかるものですが、ちょうどコロナ禍に対して各国とも莫大な支出が強いられそれを埋めるための税収が必要となるということもあり、意外に進み方が早くなるかもしれません。

 

この先どのように展開するのか、注視したいところです。