なにしろ、「夢の話」といったコーナーをブログにも設けているほどですので、夢についてはかなり興味があります。
この本は、高校生の頃に瀕死の状況に陥いった時にまさかのような夢を見て生き返ったという経験から「意識と夢」についての研究を志し、脳生理学、精神分析学などを探求してきた著者が「睡眠と夢」というものを一般読者にも解説しようとしたものです。
高等生物が睡眠をとるのは間違いないのですが、それでは生物はすべて眠るのかどうか。
これは中々難しい問題で、「昆虫は眠るのか」ということもはっきりとは分かっていないようです。
ゴキブリやサソリが昼間はおとなしくしているのは分かりますが、かと言ってその時「眠っている」のかどうか、睡眠の定義が難しいので決めることができないそうです。
哺乳類、鳥類では眠っているという状態があるのは間違いありません。
鳥では徐波睡眠と逆説睡眠の両方が存在することが確かめられています。
これは哺乳類とほぼ同様の状態であり、これを「真睡眠」と呼んでいます。
このような睡眠の状態は脳が進化して、かつ一定の体温が維持できるようになった動物にしか見られません。
いや実は体温が安定することによって神経発生が助長され、大脳皮質が発達してきたとも考えられています。
そして、その発達した大脳皮質はあまりにも大きなエネルギーを消費するために、時々は休ませてやる必要があり、それが睡眠につながっていたのかもしれません。
ヒトでは一晩に4回、逆説睡眠が繰り返されます。
まとめて長く取ってしまえば良いようなものですが、これは変えられません。
クレイトマンの人間リズム90分周期説というものがあり、一定の時間以上の逆説睡眠はとれない仕組みになっているようです。
逆説睡眠時には覚醒時と同じほどにエネルギーが必要とされるので、エネルギー源のブドウ糖がどんどん消費されてしまいます。
脳内のブドウ糖を消費してしまうとそれ以上は逆説睡眠できなくなり、ブドウ糖を貯めるための時間が必要となるのですが、それが90分だという説です。
なお、「レム睡眠」という言葉もありますが、これはRapid Eye Movement Sleepすなわち急速眼球運動睡眠の頭文字を取ったもので、アメリカの学会でよく使われたのですが、常に眼球運動が起きるとは言えないので、ヨーロッパ系の学会では「逆説睡眠」と呼ばれるようになったということです。
この本では「レム睡眠」「ノンレム睡眠」という術語は使わず「逆説睡眠」「徐波睡眠」を使っています。
夢を見るのは逆説睡眠の中でのことです。
クレイトマンが眠っている時に眼球が動き始める時間があることを発見し、脳波を調べていくとその眼球運動と連動して脳の活動が活発化するために、この時に夢を見ているに違いないと考え、その時に被験者を起こしてみるという研究をしたところ、ほとんどの場合夢を見ていたことが分かったのは、1953年のことでした。
これ以降、夢を見るという現象をさまざまな実験で調べることができるようになりました。
なお、逆説睡眠時には大脳は活発に活動していますが、筋緊張は低下します。
このため、夢の中では運動したりしていても、実際には身体が動くことはありません。
これが崩れてしまうと夢遊病になってしまいます。
また逆説睡眠のサイクルが変則的になったり、ホルモンバランスの影響で逆説睡眠時に覚醒したりすることがありますが、この時は筋緊張が低下したままのため、体を動かそうとしても動かないという「金縛り」と認識されることがあります。
もう少し覚醒度が上がると身体のスイッチが入って動けるようになります。
夢はみていてもすぐに忘れるというのは、夢を見るのは作業記憶、ワーキングメモリーという領域を使っているからです。
特に印象が強い夢以外はどんどん消えていくので一回の逆説睡眠が終わるとその回の夢はすべて忘れてしまいます。
したがって、覚えている夢は最後の逆説睡眠時のものだけになります。
それも目覚めてからちょとすると忘れてしまいます。
夢を見ている時に「これは夢なんだ」と意識することがあります。
これを明晰夢と呼ぶそうですが、これは逆説睡眠時でもかなり高い程度に新皮質が活性化されている状態で、人によってはこれを良く見る人も居るそうです。
夢を見るという行為について、まだまだ研究は進んでいる最中のようです。
最後の章には「夢はなんの役に立つのか」ということも論じられていますが、一説には「何の役にも立たない」というのもあるそうです。
まあ、そうなのかもしれません。
私もかなり夢を見る方ですが、実際に「これは夢なんだ」と認識する明晰夢も見ています。
それどころか「この夢はブログに書ける」という夢も見ています。
こんなことを知られると「研究対象に最適」とでも見られるでしょうか。