著者の石橋さんは民話や伝承の溢れる日本各地を旅をして回り、その現場を見て歩くということをされているのですが、本業は写真撮影の方で力量も相当の方とお見受けします。
そこで各地の民話の里で撮影した写真とその話をとを絡めその36か所を紹介するというのが本書です。
北は北海道から西は中国・四国まで。(九州にはいらっしゃらなかったようです)
風景のきれいなところの写真もありますが、深い森の中の薄暗いところでの石塔などの光景というのも詩情あふれるものです。
北海道や東北の各地はあまり馴染みがないので、よく知っている地域のものだけ紹介しておきます。
長野県北部の姫川流域を通う千国街道はまたの名を塩の道と呼びます。
麓のあたりでは新緑がまぶしい時期でも背景の後立山連峰はまだ雪が残っています。
この道には山姥の伝説が残っています。
塩の道を通っていた牛方(牛を使って荷を運んだ)の若者が峠を通りかかると山姥が現れ、積み荷の干鱈を食べさせろというのでやるとウシまで食べてしまい、やっとのことで逃げ出し反撃して山姥を倒すという話だそうです。
戦国時代に塩の欠乏に苦しんだ甲斐の武田に上杉謙信が塩を運ばせた「義塩の道」もここだそうです。
木曽川の中流、上松付近に寝覚めの床という名所がありますが、そこには浦島太郎伝説が伝わっています。
浦島太郎はもちろん海沿いの話であり、故郷は丹後だったのですが、竜宮から帰った太郎は故郷に誰一人として知った人が居ないことに落胆し丹後を離れたどり着いたところが木曽の寝覚めの床だったということです。
民話の数々はやはり庶民の厳しい生活を反映してか、悲しいものが多いようです。
それの舞台となった各地の風景はそれでも美しいものが多いようです。