爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ノーベル賞でたどる物理の歴史」小山慶太著

ノーベル賞は20世紀になってすぐの1901年より授賞を始めました。

他の各賞も偉大な業績ではあるのですが、特に物理学賞は科学の根本にあるようなものが多いように感じます。

その、ノーベル物理学賞を受賞した人々の業績について、1901年から2012年までのものをすべてコンパクトに解説しています。

 

ノーベル物理学賞の第1回受賞者がX線を発見したレントゲンであったことが表しているように、物理の大きな発展がこの時期と重なっており、数多くの人々が受賞しています。

物理の発展とも関連し、ノーベル賞受賞者の傾向にも大きな潮流が見られます。

一つは物質の構成要素を極限まで追求していくもので、原子から原子核、さらに陽子や中性子までを解明し、さらに実験で証明するという研究を進めた人たちが受賞しました。

もう一つの潮流として、物質の構造や特性についてミクロの視点からとらえる分野の人々がいます。

X線を利用した結晶構造解析で受賞したブラッグ父子、また走査電顕の開発なども受賞しています。

さらに超電導半導体開発、磁性、レーザーといった分野もこれに関連して研究されてきました。

ノーベル賞は自然科学部門は物理・化学・医学生理学の3つに限られているため、他の分野は含まれませんが、20世紀後半からは天文学分野の業績を物理学賞に含めるということになりました。

この第1号が「核反応による星のエネルギーの生成過程の発見」で1967年に受賞したベーテでした。

この分野の受賞者もその後続出しています。

 

最初の頃の受賞者は、教科書に出てくるような名前ばかり、物理単位の名前になったり有名な法則の名目になったような人名が続きます。

レントゲン、ローレンツ、ベクレル、キュリー、ファン・デル・ワールスプランクアインシュタイン、ボーア、ハイゼンベルグといった具合です。

急激に物理理論が発展していったことが分かります。

 

そんな中で意外な思いがしたのが、1953年のオランダのF.ゼルニケの受賞です。

その業績は「位相差顕微鏡の発明」

今では光学顕微鏡を使う場合ほとんどは位相差顕微鏡を使います。

以前はこれが無かったために観察対象に染色液を使って色を付けなければ見えなかったのが、位相差顕微鏡ができて以来無染色で観察可能となりました。

私も現役時代に顕微鏡観察といえば必ずこれにお世話になりました。

それが意外に新しい時代の発明で、ノーベル賞も受賞ということは知りませんでした。

 

日本人の受賞者も1947年の湯川秀樹博士以来、続々と名前を連ねています。

これからも続いていけば良いのですが。

 

ノーベル賞受賞分野以外にも多くの重要な学術分野があるということは間違いないのですが、はやりノーベル賞というのは特別な存在だというのは認めざるを得ないでしょう。

 

ノーベル賞でたどる物理の歴史

ノーベル賞でたどる物理の歴史

  • 作者:小山 慶太
  • 発売日: 2013/10/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)