著者は経済学者ですが、共産党から国会議員として当選したこともあり、党の経済関係の専門家のようです。
こう言うとそれだけで色眼鏡で見る人もいるかもしれませんが、実はこれは読後に調べて分かったことで、本書の最後の方にはマルクスの観点ではという描写もあったためにだんだんと気が付きましたが、それ以前にはそうは思わず、非常に「真っ当な」論議であると感じていました。
現代の資本主義経済はアメリカを中心とするグローバル企業により大きくゆがめられているのは明らかです。それを指摘できるのはマルクス経済学者しか居ないのだとしたら、非常に不幸な現象と言えるでしょう。
共産主義経済に期待をすることはできませんが、グローバル企業の暴走を止められるのはその勢力しかないのかもしれません。
2007年のアメリカによる金融危機は1929年の大恐慌、1990年代の日本のバブル崩壊とは異なる質的変化があったということです。
金融バブルから得られた教訓には「銀行業と証券業は兼業させてはならない」「銀行信用は架空資本投機に開放されてはならない」というものがあったはずでした。しかし、アメリカの金融ビッグバンではこの2つを投げ捨てるものでした。
さらにアメリカの金融業では第3の変質、「貸付債権を売却し証券化することで空洞化させる」ということをやってしまいました。
そしてさらにその証券化の道具として「特別目的会社」というものも設立してしまいました。これは「導管(Conduit)ビジネスモデル」というもので、超過利ザヤで儲けを上げるというものでした。さらにこの特別目的会社をタックスヘイブンと呼ばれる国に置くことでさらに儲けを上積みすることになります。
金融以外でも製造も含めた事業での多国籍企業のシェアの上昇は続いています。M&Aは国を越えて行われるのが普通になり、ますます大型になっていきます。
生産高のベースで見ても大型多国籍企業のシェアはすでに1/3を越えており、さらに貿易高だけで見るとそれは2/3以上になるということです。
これらの企業は生産能力を急激に上げているために過剰生産の危険性を強めています。またこれら企業の資本の過剰蓄積も進んでいます。こういった状況は危険性につながっています。
日本でも自動車会社、電機会社などはこのような傾向が強まっており雇用者数も海外の方がはるかに多くなっています。日本国の資本でありながら雇用者は外国と言う状況です。
発達した資本主義国では個人消費をするのは労働者であり、それが内需の主要部分を占めるわけです。その労働者の賃金水準が上がらないのでは内需も増えようがありません。
アメリカは現在は最大の債務国となっており、その額も巨大です。それに対応して外国資本の流入と言うことを促し埋め合わせています。これは基軸通貨としてのドルを発行できるアメリカにだけ可能な対策ですが、重大な悪影響を引き起こしています。
寄生的な経済への転落の道を進んでおり、世界経済の中で見てもアメリカだけが自国内で生産したものよりもはるかに多い物を消費できるという異常現象になっています。
これらに対するには金融に対する規制を緩和するのではなく強化しなければなりません。監視と規制を考え直すべきでしょう。
さらに日本発の多国籍企業に対しても正当な規制を強めていく必要があるでしょう。
このように、共産党の主張と言うことを考えに入れても、極めて正当な議論かと思います。その手段として何をするかについては困難があるでしょうが、考えていくべき方向だと思います。