著者の太田さんはロシア文学を専攻していたものの、映画の面白さに引き込まれて字幕作成の道に入り、フリーの字幕屋として30年。
新作の映画を公開に先立って見ることができるというのは得な反面、いろいろな苦労は多いようです。
外国映画を見る時に、今では日本語吹き替え版もかなり増えていますが、やはり原語の響きを楽しみたいという観客の思いもあるためか、吹替版とともに字幕版も並んで上映されることが多いようです。(この点、スクリーンがいくつも並んでいるシネマコンプレックスというのはありがたいものです)
しかし、その「字幕」というものの付け方はかなり大変なもののようです。
映画1作に付けられる字幕の数は平均1000とか。
とはいえ、セリフの多い映画と少ないものとの差はかなり大きく、全編マシンガントークという映画で字幕数2000以上というものもあったとか。
しかし、翻訳料は字幕数で決まるのではなく、映画の長さで計算されるので「オイシイ」仕事とそうでないものとはかなり大差があるようです。
映画の輸入が決まるとだいたいは原語台本がついてくるのですが、それが無い場合もあります。
そうなると大変な作業になり、日本在住の外国人に聞かせてセリフの書き起こしという作業をするのですが、それがかなり難しいものです。
いくらネイティブスピーカーといっても、映画で話しているセリフをきちんと文章にできるかどうかは分かりません。
自分で考えても日本語の映画を見せられてそのセリフを全部文章に書き起こせなどと言われてもほとんど無理でしょう。
しかし、無理でも何とかしなければ字幕にできない。
想像力を駆使して埋めるそうです。
字幕には字数制限があり、1秒=4文字というのが原則となっています。
いくら深淵で高尚なセリフをしゃべっていても、それ以上になれば観客が読み取ることができないので文字を並べても無意味になります。
そこを分かっていないが内容は理解している観客が、言っていることと字幕がぜんぜん違うといったクレームを入れてくることもあるそうですが、そんなのは知らんということです。
本の題名にもなっていますが、字幕には「、」句読点は入れません。
その理由は分かっていないそうで、小さくて入れても分かりにくいからとか、入れるとフィルムを傷つけるからとか言われていたそうですが、そうでもないようです。
その代わりに、半文字分のスペースを入れて言葉の切れ目を作るそうです。
字幕作成という、あまり知られていない社会のことを垣間見えた本で興味深いものでした。
なお、各段落には表題が付いているのですが、それが皆「ダジャレ」でできています。
「得マニュアル夫人」だとか、「原典パパ」、「カバの壁」「トウテン虫のサンバ」など。
おそらく、著者の太田さんはかなり面白い人かと感じました。