進化と言っても、大きな変化を扱うものもありますが、昆虫と植物の関係だけを見ても変化しているという小さな?進化もあります。
例えば、有毒の生物に自分自身を似せて身体の構造を変化させてしまったということはしばしば見られることですが、その生物が意思をもってそのように変化したということはないはずですので、やはり何らかの遺伝子の変化が伴ったのでしょう。
本書著者の鈴木さんは昆虫学が専門の生物学者ですが、その中から進化ということを考えていきます。
普通の進化の教科書では触れていないような話題も取り上げたということです。
たとえば「昆虫と植物の共進化」は昆虫学の教科書には必ず載っているのですが、その中でも「昆虫が成長に不適な植物を食べる」例や「共生のパートナーを乗り換える」例は他の教科書ではなかなか取り上げられないそうです。
また、「求愛のエラー」の問題についても、多くの進化生物学者は「生殖隔離の強化」が起きてエラーは解消するだろうとしていますが、本書ではこの求愛のエラーが維持される要因を説明しました。
さらに、生態学では常識となっている「エサをめぐる競争」に疑問を投げかけ、エサ選びに見られる不合理を「求愛のエラー」と組み合わせて説明しました。
というように、「一見不合理に見えるがその中には合理的な理由が隠れている」ということの説明を主にしたそうで、明記はされていませんが本書をどういう読者に読んでほしいかということを示していると感じられます。
新書判での発行ということもあり、おそらく生物学研究を目指す中高生あたりを念頭に置いているのではないでしょうか。
そういった本を私のような老人が読んでも良いものかどうか、少し気が引けます。
コミカンソウという植物があり、その花は特殊な形態をしているため、普通の花粉媒介者としてのハチやハエなどでは花粉にたどり着きません。
ハナホソガという昆虫はその身体の構造が花の構造とピッタリしているため、専属のように振る舞います。
このような共生関係は、コミカンソウ科植物が世界で500種ほど知られているのですが、その1種ずつに特定の種のハナホソガとペアを組んでいるそうです。
このような絶対共生と言える関係の共生でも、「パートナー変更」という事実は起きるそうです。
このように特別の形態や行動をすることで行動する「スペシャリスト」生物については、生物学者の興味をひき多くの研究が行われてきました。
しかし、著者の見た所、これらのスペシャリストとしての適応は必ずなにかの犠牲を伴っています。
これは「すごい進化を遂げた」のではなく「いやいやながら進化してしまった」のではないかという感触を持っています。
なぜそのように「いやいやながら」進化をしなければならなかったのか。
そこには、やはり合理的な理由が隠れているのでしょう。
クリサキテントウムシというテントウムシの一種は、松の木に住むマツオオアブラムシというアブラムシの一種を食料にしています。
ナミテントウというテントウムシはそのような特殊なアブラムシだけを食べるのではなく、多くの種のアブラムシを食べます。
マツオオアブラムシは特に美味しいとか捕まえやすいとかいった利点があるのでしょうか。
それを比較して調査した所、クリサキテントウも並べてやれば別のアブラムシに飛びつきました。
どうやら、マツオオアブラムシはあまり美味しくないようです。
ならなぜクリサキテントウはマツオオアブラムシを食べるようになったのか。
ここから先は著者の鈴木さんの研究に基づく推論ですが、クリサキテントウムシとナミテントウムシを一緒にしておくと、間違えて交尾していまうクリサキテントウムシが多いのです。
交尾しても雑種が生まれることはないので、その精液は無駄になります。
なお、逆にナミテントウムシは他のテントウムシが一緒でも必ず同種のメスを見つけるとか。
つまり、クリサキテントウムシが他のテントウムシが不味くて食べようとしないマツオオアブラムシの環境に住むのは、自分の交尾機会を守るためではないかということでした。
進化学の面白さを感じるところです。
他にも「有性生殖と無性生殖の比較」という話題も面白かったのですが、長くなりすぎるのでカットします。
すごい進化 - 「一見すると不合理」の謎を解く (中公新書)
- 作者: 鈴木紀之
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/05/19
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (8件) を見る