爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「シャーロック・ホームズの科学捜査を読む ヴィクトリア時代の法科学百科」E.J.ワグナー著

シャーロック・ホームズの捜査というものは、もともとは科学的なものであることが売り物でした。

「緋色の習作」では死体の死後硬直の状況を調べたり、「海軍条約文書事件」では科学実験装置で事件の遺留品を調べたりと、当時の最先端の科学捜査を描いています。

 

これは、もちろんホームズ生みの親のコナン・ドイルが医師であり、さらにドイルの大学時代の恩師であるジョゼフ・ベル博士が法医学にも詳しかった影響があります。

 

ホームズ活躍の舞台でもある19世紀のイギリスでは、科学の発展とともに警察の犯罪捜査も科学的な解析が進歩している最中でした。

この本は、ホームズの小説の中の描写を導入部として、それに関連する各地での事件捜査の事例も引用しながら、科学捜査の発達というものを描写しています。

 

取り上げられているのは、次のような分野についてです。

解剖学、動物・昆虫の痕跡と分類・分析、毒物について、変装の科学、現場検証の重要性、指紋による個人確定、銃撃にまつわる弾道と線条痕鑑定、筆跡鑑定、血液の検出、骨相学、といったことが扱われています。

 

現在ではどれも高度に科学的な根拠により裏付けられていることですが(骨相学だけは否定されましたが)、その当時はほとんど知られていなかったということが信じられないほどです。

 

赤い染みがあったとしても、それが血液なのかどうか、さらにそれが人間のものかどうか、現在では高度な分析装置があり、さらにDNAまで調べられますが、19世紀には雲をつかむような話でした。

それが人血かどうか、裁判で争われ高名が学者が議論を闘わせるということもあったようです。

そして、その誤審が基で無実の罪に問われ有罪になった人もいました。

 

指紋が個人を特定できるということは、現在では誰もが知っていることですが、その事実が知識として確定したのもそれほど古い話ではないようです。

血だらけの殺人現場で、犯人のものらしき手や指の痕があちこちに着いていてもそれを観察するわけでもなく、別人を逮捕して拷問したということも多かったようです。

指紋での個人特定ができるという説が確定するまでも、多くの論争があったそうです。

それ以前には、手足や身体の寸法、歯の本数のようなものの方が重要視された例もありました。

こういった身体的寸法が変化しないと言うことを主張する学者も居り、指紋が変化しないと言う説はなかなか受け入れられなかったようです。

 

現代日本でもこういった科学捜査には一定の人気がありそうで、「科捜研」に関するドラマが作られていますが、その内容はシャーロック・ホームズが見たら驚くほどのものかもしれません。

しかし、それも多くの人の努力で進歩してきたものなのでしょう。

 

シャーロック・ホームズの科学捜査を読む

シャーロック・ホームズの科学捜査を読む