編者の小倉さんは参議院議員の政策秘書ということで、その他もそういった立場の人やTPPで影響を受ける人々などが共著で2011年に書かれた本です。
当時は民主党菅政権がTPP交渉参加を打ち出したところで、本書も民主党政権批判という立場ですが、その後自民党安倍政権になり交渉は加速されついに先ほど合意と言うことになりました。
中身はおそらくこの本の書かれた当時の延長でそのまま成立していると考えられますので、本書の指摘する問題点はそのままになっているはずです。
内容は、TPPの概要説明、それに向けた日米の財界の狙い、実施されれば日本の農業と食は破壊される、食の安全・食料主権は脅かされる、労働市場にも影響、TPPで農業再生も経済成長もあり得ない。といったことです。
TPPでは関税の原則撤廃と言うことが言われ、報道でもそればかりと言う印象ですが、実際はすでにこれまでの様々な取り決めで日本は実質的に関税はほとんど撤廃されています。この後アメリカが目指しているのは実はサービス部門の進出です。非関税障壁の完全排除を狙っており、それがアメリカのTPPの目的でもあります。
サービス貿易で扱われる分野は、実務・通信・金融・運送・建設・流通・観光・旅行・教育・娯楽・環境などであり、これらは物品の貿易と異なり資本・労働・技術・経営資産などの移動も伴うという特徴があります。そのために例えば医師や看護師、弁護士といった専門職の資格をどう扱うかと言う問題も出てきます。
これまでにも日米間ではさまざまな交渉がされてきました。日本の貿易黒字が大きくなるにつれアメリカからの要求は厳しさを増してきた経緯があります。
最初は牛肉・オレンジの自由化といったところから始まりましたが、1990年代に入ると個別の物品だけでなく日本の政治経済的仕組みにまで注文を付けられるという場になってしまいます。
市場開放、規制緩和というように言われていますが、その実はアメリカ政府によるアメリカ経済に利するような日本政治に対する内政干渉に他なりません。
74年に制定された大店法はアメリカ企業の進出に邪魔になるとして交渉の結果、2000年に廃止されました。
保険業務もアメリカの要求に沿って90年代後半から自由化がすすめられましたが、販売優先となり問題も続出しています。
2005年の郵政民営化もまさにアメリカからの干渉により成立しました。
アメリカは政府と企業連合が一体となり市場ルールを自分たちの有利になるようにつくりかえようとしています。その方策がTPPと言えます。
外国投資家と国家の紛争調停をするというISDS条項は以前は「毒素条項」と呼ばれていたそうです。これが最初に導入されたのが北米自由貿易協定(NAFTA)でした。この結果、メキシコで廃棄物処理を営んでいたスペインの企業が住民反対により事業継続ができなかった事例に対し、メキシコ政府に対し企業への多額の補償を命じたそうです。
また、カナダが環境保護条例、水資源保護条例を施行しようとしたことが海外投資家の利益を損なうとしてやはりこの条項でアメリカ企業により提訴されてしまいました。この和解のためにカナダは巨額の補償を余儀なくされました。
食の安全については、政府は否定しているようですが、残留農薬基準の緩和、認可農薬の範囲拡大、食品添加物の拡大といった事態は間違いなく実施されそうです。
これらの自国内での規制が海外基準と異なる場合は緩い方への統一が起こりそうです。
本書内容について、政府は交渉の過程でも合意後もまったく答えていないようです。よくこんなもので進んでいるもんだとかえって感心してしまいますが、一番考えてほしいのは自民党の議員の人々です。首相や党本部の言われるままに賛成票を入れるのでしょうか。