爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日米同盟と原発」中日新聞社会部編

世界でも有数の原発大国となり、福島原発事故により大きく見直しをされている日本ですが、原子爆弾で世界最初の被害を受けたのも紛れもない事実です。

 

その被爆国を原発国に変えるにあたっては、アメリカと日本の関係、日米同盟が大きく関わっていたのは間違いありません。

それがどのように始まり、どう進展していったのか、中日新聞などが取材し調査し記事としてまとめたものを一冊の本としました。

 

第2次世界大戦では、アメリカは実際に原爆を作り上げ世界で初めて使用したのですが、日本でもそれが兵器として使えることを認識し、開発の検討をしていました。

理化学研究所で物理を研究していた仁科芳雄を中心に、陸軍が支援する「二号研究」で検討されたのですが、理論的に可能性があることまでは分かったもののウラン原料の確保もできず、打ち切りとなりました。

広島に原爆が投下された直後に、仁科博士は現地に入りそれが本当に原爆かどうかを調査し、間違いなく原爆であると判断し報告しました。

しかし、「核の恐怖」は政府判断で公にはされませんでした。

 

核の恐怖を覆い隠そうとしたのは、日本降伏のあと占領したアメリカ軍も同様でした。

被爆地の状況を調査し、生存被爆者の健康調査も実施したのですが、アメリカ軍はこういった結果を公表すること無く、隠し通しました。

講和条約が発効し日本占領が終わると、被爆の現実の報道も可能となりましたが、アメリカは共産圏との緊張が高まることから、核武装を進めます。

日本でも核武装への拒否感を高めないように誘導され、「原子力の平和利用」に世論を向けさせるような政策が取られました。

 

原子力問題の高まりは、左翼の反米活動に利用されるとの危機感から、科学者の思想選別と言うことも行われました。

1954年に当時の政府高官たちによって極秘にまとめられた文書には、物理学者などの科学者を極左、中立などと分類したデータが残されています。

後にノーベル賞を受賞した益川敏英氏の恩師である名大教授の坂田昌一は「極左」、朝永振一郎東京教育大教授は「中立」、等々、81人のリストが作られました。

 

 学術会議などが原子力の平和利用に慎重であったものの、政界が一気に動きを強めます。

当時は保守系政党も3つに別れていたのですが、改進党の中曽根康弘を中心として原子力利用の調査費を予算化するという法案を提出し、1954年に可決させました。

これはアメリカからの要請というよりは日本側からの働きかけだったようです。

しかし、ちょうど同じ頃に南太平洋のビキニ環礁アメリカが水爆実験を行い、操業中のマグロ漁船第5福竜丸が大量の放射能を浴びて船員が被爆するという事件が起こります。

一番症状のひどかった久保山愛吉さんが半年後に死去、他の船員もその後相次いでガンなどで早逝します。

 

これで原発開発にブレーキがかかるかと言うとそうではなく、平和利用は別とばかりに原発推進に拍車がかかり、翌年には日米原子力協定の締結、原子力基本法の制定などの基礎固めができあがり、56年には日本初の原子炉、東海原発の建設が決定します。

ここには、読売新聞社社主であった正力松太郎の力が無視できません。

ただし、正力自身は技術や科学知識はほとんどなく、ただこれを成し遂げるという功名心だけで突っ走ったもののようです。

 

しかし、アメリカの側も日本の原発推進に諸手を挙げて賛成かというとそうでもなく、日本の核武装につながるとして危険視する勢力もあったようです。

このアメリカの危惧を晴らすために、日本政府は様々な説明を重ねたようです。

 

その雰囲気が大きく変わったのが1970年代に入ってからのことで、日本からの様々な製品輸出で日米の貿易収支が変化し、日本の大幅な黒字となってからでした。

当時はまだ繊維製品が焦点だったのですが、そのアメリカからの購入を増やすとともに、航空機の購入、そしてアメリカ産の濃縮ウランの大量購入でアメリカをなだめようとしたのです。

そこから日本国内各地への原発建設ラッシュが始まりました。

これは、田中角栄の政策とも結びつきました。

ここにきてようやく「原子力ムラ」の本格的起動が始まったとも言えます。

 

スリーマイルでの原発事故があっても、日本では起こりえないと言う根拠の薄い安心感だけで動き続けましたが、その結果が破綻につながりました。

 

巻末にはこの取材のなかで実施した多くのインタビューが並べられています。

元大統領カーターにもインタビューをしたようです。

本書はなかなかの力作と言えるでしょう。

 

日米同盟と原発 隠された核の戦後史

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