爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「小さな大世界史」ジェフリー・ブレイニー著

人類が誕生した200万年前から現在までの人類通史というものを書いてやろうという無謀?な試みでできた本です。

 

著者はオーストラリアの歴史家ですが、政治的な発言も多いという、元メルボルン大学教授のブレイニー氏です。

そのためか、監訳の南塚信吾千葉大学名誉教授によれば、「欧米の歴史家の書く世界史ほどヨーロッパ中心主義的ではない」ということです。

しかし、読んだ感想は、やはり相当ヨーロッパ偏重というものでした。

アジアが出てくるのも、ヨーロッパからの眼を通してと言うものですし、まだ中国は若干の記述があるのですが、インドに関しては非常に少ないようです。

 

 なお、翻訳は南塚先生ほか数名の方があたっていますが、なぜか歴史学者は南塚さんだけで他は政治学や国際文化が専攻ということです。その訳は分かりませんが、さほど内容に問題があるようなことは無いかもしれません。

 

また、訳者が強調しているように、本書は科学や技術の影響というものを大きく捉え、さらに気候の影響も強く意識されているということです。

通常の歴史学者の捉え方ではこの点が弱いことが多いようですので、その点では面白い視点があるのかもしれません。

 

ごく最近の話とも言えるのですが、氷河期の海面の下降とその後の上昇(日本で言えば縄文海進)は人類の移動や居住という基本的な面で大きな影響を与えているのは当然なのですが、これまでの歴史書ではまとまった図も見られなかったと思います。

しかしこの本では紀元前16000年のもっとも海が低くなった時の陸地の輪郭とその時の氷河の広がりを、世界規模で描写しており新鮮な思いで見ることができます。

日本列島も完全に大陸とつながっており、これなら無理やり筏で渡る必要もなかったはずです。

さらに、その時点でもしも文明が起こっていても今では完全に海中にあるとすれば、今の考古学は間違ったところを発掘しているのかもしれません。

 

もう一つ、まったく盲点に入っていて気が付かなかったところを一つ。

地中海には潮の満ち干はほとんど無いそうです。

そのため、港の建設も楽で停泊、荷降ろしもそういったことを考慮せずにできたというのが、文明開始当初から有利に働いたそうです。

また、ヴェネツィアという町もそれだからこそ運河に頼った街づくりが可能となったわけで、もしも潮の干満差が大きければ不可能だったとか。

気が付かなかった。

 

まあ、ちょっと変わった歴史書と言えるかもしれませんが、ところどころ参考にはなりました。買ってまで読む本じゃないかも。 

小さな大世界史:アフリカから出発した人類の長い旅

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