爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「西遊記 トリック・ワールド探訪」中野美代子著

著者は中国文学者で、西遊記の翻訳出版も経験されている方ですが、その翻訳の過程で西遊記と言う物語の持つ裏の意味と言うものにも気付かされたと言うことです。西遊記と言うと荒唐無稽な物語と言うイメージが強いものですが、実は五行、易、煉丹術などの思想を張り巡らしたような計算ずくの構成になっているということです。
西遊記は一般には明代の呉承恩が書きまとめたとされていますが、それのかなり以前から多くの人により書き加えられたもののようです。最後の構成についてもとても呉承恩ひとりの執筆によるとは考えられず、少なくとも数名の共同執筆であったというのが著者の考えです。

西遊記は全100話の構成になっていますが、その数字については色々の仕掛けがしてあると言うことです。
前の12話は孫悟空の物語で13話に三蔵が出発するのですが、最後の2話は別構成と考えると中の86話がちょうど中間を中心にしたシンメトリーの構造となっているということです。第43話の琵琶洞を中心として、金角銀角と駱駝洞の話、烏鶏国と朱紫国の話、車遅国と小音雷寺の話など、同じようなエピソードが配置してあるということです。
また、二乗数(16,25,36,49,64,81)の回の話には特別なエピソードを置いてあります。これもはっきりと意識された構成のようです。

西遊記の先行テキストというものは、宋の時代のもの、元の時代のものなどいくつもあり、それらを明代に取捨選択して組み立てた作家のグループがいたのではないかと言うのが著者の見方です。その時に数字などいろいろの思想を反映させて構成を考えたというのが、さまざまな検討で見えてくるということですが、まああまりそれにはこだわらない方が物語を楽しめるのかも知れません。