日本霊異記とは平安時代の初期に仏僧であった景戒(きょうかい)がまとめた、日本で最初の仏教説話集であり、その話は主に8世紀の奈良時代に都周辺で語られていたものが中心となっています。
それ以前にも神話から来たような物語は数多く存在していたのですが、広まりだした仏教というものがそれらの物語に仏教の訓えを押し付けるようになります。
霊異記では、そのような古代神話の世界から仏教説話の世界に移行しだした時代の特徴とも言うべきものが表れているようです。
一見したところ、非常に矛盾した内容や不道徳と言うべきものが混在しているものもあり、整理されたものではありません。
また、古代の母性社会の特性を残しながら、大陸風の父系社会へ変わっていくという過渡期の現象が見られるようです。
パターン別に語られており、「小さ子」という、小人のようなトリックスターが活躍するというものや、「力持ちの女」「恩返しの発生」「悩ましき邪淫」などにまとめられます。
邪淫といってもここで扱われるのは女性のものです。
それ以降の男性社会では男性の邪淫というものは別段悪いこととは扱われません。
しかし、女性の邪淫というものは忌むべきものとして糾弾されるようになるのですが、実はそれ以前の古代社会では女性が次々と男性を代えていくというのは普通のことでした。
それをなんとか仏教を手段として止めようという意志があったようです。
行基という僧は実在の人物であり私度僧として活躍を始め大きな影響力を持つにいたり、その後朝廷からも重用されるようになったのですが、この行基を扱った物語も霊異記には数多く入っています。
中には、中巻第30話に「行基大徳が母に児を捨てさせる」というものもあり、親子連れの母にその子が前世の怨みを持っているとして川に捨てさせるという不可思議な話もあります。
前世の因縁ということで説明しているのですが、いかにも唐突です。
他にも様々な「いかがわしい」話も含まれていますが、奈良時代という庶民の生活などはほとんど想像もできない当時のことを少しだけ伺わせるようなものになっています。
その後の仏教説話集というものもこれに多く影響されているようです。