爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「放射線と冷静に向き合いたいみなさんへ」ロバート・ピーター・ゲイル、エリック・ラックス著

著者のゲイルさんは血液学の研究者ですが、骨髄移植にも経験が豊富であり、原子力関連の事故の際には治療にも携わってきたということで、ソ連チェルノブイリ事故や日本のJCO臨界事故の際も招聘されて治療に当たったと言うことです。
しかし本書は放射線の医学的な問題だけに限らず広くさまざまな問題を分かりやすく解説されています。

1985年に著者が関わったブラジルでのセシウムを使う放射線治療装置の係わる事態から放射線障害が起こったという事件から記述が始まっています。これは治療装置が所有権をめぐるトラブルから放置され、それをスクラップだとして盗み出した回収業者の周辺で被害者が出たと言うもので、数百人が被爆したということですが、日本ではあまり広く報道はされなかったもののようです。

急性でない放射線健康被害は癌発生ということになりますが、このリスクの評価と言うのも非常に難しいもののようです。
放射線があってもなくても、人間が一生の間に癌にかかると言うリスクは非常に高いものです。それが放射線があったから高くなったのかどうかということを評価すると言うのは非常に難しいことのようです。
チェルノブイリの場合もいろいろな話が出ていますが、正確なところが分かっているのは小児がかかった甲状腺がんだけで、他の例についてはその後のソ連崩壊でそもそも社会自体が大変化(それも悪い方向に)を受けたために癌発生のリスクというものも激増してしまい、また住人もあちこちに散らばってしまうなど、とても統計を取れるようなものではなくなってしまいました。

癌発生という点から見ると、そのような外部放射線の影響以上にレントゲンなど診察に使われている放射線量が多いということが問題のようです。とくにCTスキャンなどは一度に数百回の放射線を浴びるために、一回の検査で通常の年間に浴びる自然放射線の数倍の被曝をするようです。もちろん、医学的に意味のある場合はそのリスクを上回る利益が出るからと言うことで実施するのですが、そこははっきりと認識して必要以上の検査はしない方が良いようです。

原子力発電にも多くのリスクがありますが、ならば火力発電にはリスクがないのかというと決してそういうことではなく、多くのリスクがあります。これもどちらが良いかということだけでなくバランスのある見方をするべきということです。
なかなか理性的に書かれた本だと言えます。