歌謡曲と言うと昭和30-40年代の流行歌を思い出しますが、SP盤レコードで発売された1928・9年の波浮の港、東京行進曲から始まるそうです。
それから様々な変化をしながら発展していくのですが、これらの過程を詳細に論じたのが本書です。
音楽プロデューサーとして長く業界の中で活躍されてきた著者の高護(こう・まもる)さんはこの役には適任なのかもしれません。戦前の曲についても記述はありますが、その中心は1960年代からになります。
それもそのはずで、著者は1954年生まれと私自身とまったく同年の方です。
1960年代と言うと物心つき始め、さらに小学校時代となります。ラジオやちょっと早い家庭ではテレビから流れてきたのは流行していた歌謡曲が主でした。
そこから1990年代の初頭までの歌謡曲の進展が語られています。
1960年代初頭には日劇ウェスタンカーニバルに代表されるロカビリーブームが起こったのですが、そこから生まれたカバーポップスとオリジナルポップスが大きな影響を与えます。
一方、演歌の方面でも北島三郎、都はるみ、水前寺清子などの実力者が登場し、充実した時代を迎えます。
さらに、外国ポップスのカバー版の流行が衰退するとともに青春歌謡と言われる一群の歌手が登場し、続いてグループサウンズブームが到来することになります。
これにはそれまでの歌の伴奏に過ぎなかった演奏が巧みな編曲によって歌と一体のものとして成立する「アレンジ革命」と言われるものの出現でした。
さらにそれに「ビート革命」と言われるビートルズの影響を受けた曲の登場につながります。
これらの動きの中には坂本九、橋幸夫、ザピーナッツなど懐かしい名前が続出します。
また、この時期にはマルチチャンネルレコーディングなどのテクニックの発展も大きく進歩し、美空ひばり、島倉千代子といったベテラン大物歌手もそれらの動きを取り入れた新曲発表を起こすことになります。
1970年代はニューミュージックと言われるものが誕生し発展し定着していったという意味でも新時代の幕開けなのですが、それとともに歌謡曲も黄金時代と言えるような盛況になります。
歌手にも実力と人気を兼ね備えた人々が輩出するとともに、作詞家・作曲家にも次々と実力者が登場し、さらに編曲にも大きな変化を起こす人々が続きます。
同時に演歌の世界でも最後の?輝きを見せていたようで、ムード歌謡と言われる分野で一定のヒットを見せるということがありました。
1980年代になるとそれまでの歌謡曲やフォーク系のニューミュージックとは異なる、AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック=大人向けの洗練されたロック)と呼ばれるようなシティ・ポップスといった音楽が流行するようになります。
それはスピーディな16ビートを伴うテンション・コードによるサウンドが特徴的なもので、これはその後の「J-POP」と呼ばれるニューミュージックとポップス系歌謡曲が融合した音楽のルーツと考えられるものでした。
寺尾聡のルビーの指環、稲垣潤一のドラマティックレインといった曲がその実例ですが、これらには作曲者、編曲者などとして井上鑑、筒美恭平、秋元康などだ関わってきています。
演歌にもAORの影響が強く表れ、八代亜紀の舟唄なども複雑な音楽要素を入れ込んだ構成になってきています。
1990年代はダンスというものの影響を強く受けるようになるのですが、ここで本書は唐突のように終了します。
何のまとめもあとがきもなく終わってしまいましたが、それ以降は著者の興味を惹くような音楽シーンは無くなってしまったということなのでしょうか。
最初に書いたように、この時代と言うものは私自身にとっても子供時代から青年期を経て大人になっていくという多感な時期に当たり、いろいろな音楽にも影響を受けました。それをそのまま詳しく解説され、懐かしいとともにこれまでよくわかっていなかった音楽について新たな見方をさせてくれたものでした。