爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「不運の方程式」ピーター・J・ベントリー著

著者は計算論・生物学が専門のようですが、ライターも兼ねているイギリスの科学者です。
現在の世界は科学の成果に囲まれていますが、普通の人はそのどこに科学があるのか良く分からないまま生活しています。そこで、一人の不運なビジネスマンを登場させ、次から次へと不運に見舞われる彼のどこに科学が関わっているかを分析して見せます。

しかし、その科学の範囲は物理学・化学から生物学・医学まで多岐にわたり、なおかつ非常に深い内容になっています。それぞれの分野の専門家と比べれば浅いのかもしれませんが、その広さは驚くべきものです。日本にはまったく育っていないジェネラリストという人々なのでしょう。

目覚まし時計がなってもなかなか目を覚ませない主人公を描写しながら、著者は睡眠の解説を始めます。
やっと起き上がった主人公はシャワーを浴びようと浴室に行きますが、そこでシャンプーをこぼしてそれに滑って転びます。そこで著者はシャンプーの化学的構造についての解説をします。
ほかにも、シャツのポケットにMP3プレーヤーを入れたまま洗濯をしてしまい、プレーヤーを台無しにしてしまいますが、これはリチウム電池に入っている電子装置がショートして壊れるためだとか。
出かけてみると車のガソリンが少なかったのでスタンドに寄りますが、イギリスもセルフサービスになっていてそこでガソリンと間違えて軽油を入れてしまいます。そこで著者はガソリンエンジンディーゼルエンジンの構造の違いと間違えて入れてしまったときの対処の方法まで解説します。

さまざまなトラブルの果てに仕方なくオフィスまで歩いていく主人公の靴がぱっかりと割れてしまい、急遽接着剤で貼り付けるのですが、誤って手の指を接着してしまいます。瞬間接着剤の接着の原理は完全には解明されていないことも著者は解説してしまいます。

それぞれが専門の科学者が長年かけて解明してきた科学的な事項を適切に解説していく力量というものを著者が持つことを感じさせてくれました。