爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「吟醸酒への招待」篠田次郎著

著者の篠田さんは酒造関係者ではないものの、酒蔵の設計建築を手がけられた関係から酒造家との親交も深く、酒類品評会用につくられてほとんど市販されることのなかった吟醸酒に出会い、そのファンとなって長らく普及に携わることとなった方です。1975年から活動を始めた「幻の日本酒を飲む会」の立ち上げにも関わりました。

吟醸酒とは、酒税法でも規定されており原料の米の精米比率が60%以下(精米して残った部分が60%以下)という高度な精白を行ないでんぷん以外の米の成分を極力取り除くことで雑味を押さえて良い香りを生かすという作り方のことです。
吟醸酒自体はかなり以前から作られていました。著者の篠田さんが出会ったのも昭和30年代のようです。しかし、当時は日本酒といえば濃潤で甘口というものばかりで、吟醸酒も各種の品評会に出品するためだけに作られており、それを広く市販するということは無かった頃です。原料には高価な米を使い、それを贅沢に精白して作るのでどうしてもコストが高くなり酒の価格も上がってしまうということと、当時の売れ筋の酒質とはまったく異なるということでほとんど売れる見込みが無かったためです。
しかし、その特有の香り(吟醸香)とすっきりとした味わいは酒のタイプとしても全く別のものでありしかもかなり高いレベルのものでした。

この本は1997年出版のものですが、内容はやはり75年からしばらくの間のもののようです。その後、日本酒は吟醸酒ばかりではなく普通酒でも「淡麗辛口」が合言葉のようになり、酒質の点では吟醸酒に近づくこととなりました。もちろん吟醸香は望むべくもありませんが。そして、甘口ベタベタの昔の普通酒などはかえって見当たらなくなってしまいました。それでも日本酒消費低落傾向は歯止めがかからないようです。

製造経験はなかったかもしれませんが、著者のその方面の知識は豊富でほとんど疑問の余地もないほど正確であるようです。また広く全国の吟醸酒蔵元との交流もあったようで、私自身も以前は仕事で熊本の蔵元の方とはご一緒の機会もあり、また別の関係で石川県の天狗舞蔵元とは知り合う経験がありましたので、懐かしい思いがします。

様々な面で日本酒醸造は日本の食文化の一端を担っていたのですが、見る影も無く衰退したのは残念なところです。