爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「思春期の危機をどう見るか」尾木直樹著

テレビでも良く見かける教育評論家の尾木さんが少年の危機的現状とその対策について書かれたものですが、番組でのイメージとは異なり非常に堅い印象の文章で鋭い批判も連発です。
特に学力低下を根拠とする詰め込み教育の復活と言うことには徹底的にその認識の浅さを批判しています。また、ネット教育、キャリア(職業)教育の必要性も主張しています。

小学校高学年からの思春期という年代の子供たちの犯罪は次々と起こっていて異常な事態です。(まあ実際は犯罪数・凶悪事件数ともに年とともに減少しているという話もありますが、皆無となっていない以上はいけないことでしょう。ここは著者の見解と言うことで)
事件を起こしているのは暴れまくっているような子供ではなく、普通のおとなしい子と見られていたものが急に凶悪犯罪を起こすという特徴が見られます。思春期にかつてないほどの「ストレス」が多くの子供に溜まってきているのが原因ではないかと言う見解です。

ネット社会の進展というものも最近の顕著な傾向で、本書の出版は2006年と約10年前ですが、それでも携帯電話所持率が7割以上、アンケートでも携帯使用で危険があったというのが多数と言う状況でした。当時はまだ「持たせない運動」などというものもあったようですが、何の効果も無かったのは今では歴然としています。携帯依存という状況もすでに蔓延しており、メールの回数も1日数十回という子供もすでに出現していました。
さらに、当時は「ゆとり教育」批判として学力低下批判というものも出ていました。これも著者が論破しているように、以前の詰め込み教育では駄目だからと言うことで取り入れようとしていたゆとり教育がその真価を問われる以前に表面的な現象で批判され、反復練習と知識詰め込みの教育に帰ろうとしているものですが、そのようなもので得られる学力なるものでは対応できないと言うのが現代社会ではなかったのかと言う極めて当然な主張です。
しかもその学力低下批判というものが、教育行政の統制強化と言うものにもつながってしまい、反発する教員などを排除などということもおきている状況です。

著者がそのようなおかしな状況に対し取るべき対策として挙げているのが、ネット社会対応の教育を効率的に行うこと(教員にも教えるだけの能力を付けさせる事)そして、時代を生きる力としてのキャリア教育を行うことです。
キャリア教育というと職業体験といった形だけのものを想像されますが、そのような小手先だけの職業教育ではなく、社会での生き方というものを教えるようなものが必要だと言うことです。
現在の大学生に聞いても中高生のときに「進路指導」と言うものをされたと言っても、それはすべて「進学指導」であり、本当の意味での人生の進路といったものを考えさせるようなものは皆無だったと言うことです。進学指導もヘタをすると「進学先指導」であり、受験についてだけを指導するというもので、それだけしかできないのが現在の中学・高校の教育なのかもしれません。
大学でもその指導というものは入社試験の対策だけであったり、名刺交換の方法指導と言ったものだけのところもあり、とても社会での生き方を教えるものではありません。
このようなものではなく、どのような仕事をどうしていくのが良いかということを考えさせる指導が必要だと言うことです。
ちょうどこの本出版の少し前に「13歳のハローワーク」という本が話題になりましたが、このような見方で教育現場でも仕事というものを考えさせることが必要と言うことです。

現代の教育行政は国家主義的な統制を強制する方向ばかりに意識が行っているようで、本当に子供のためと言う視点がないものになっています。著者は子供も社会の一員として「こども市民を育てる」視点が必要と指摘しています。
しかし、出版から10年近く、さらに悪くなってきているようです。