最近、星新一さんの伝記を読んだので手持ちの星さんの作品を読み返してみました。
「ノックの音が」というのは、最初はサンデー毎日に連載していたものを昭和40年に毎日新聞社から単行本として発行、その後絶版となったので昭和47年に講談社から出版されたものです。
いずれも「ノックの音が」という文章で始まる作品15篇ですが、その傾向は巻末の開設にSF作家にして評論家でもある石川喬司さんが書いておられるように、
星の書くショートショートは、SF、ミステリー、ファンタジー、童話の四つに大別できるが、本書の十五篇はミステリーの系列に属する。
ということで、SF的味付けは無くミステリーの要素が強くなっています。
また、星さんの他の作品のように「エヌ氏」や「エフ博士」が主人公ではなく、固有名詞の人名が主人公となっているのも特徴的ですが、これもサンデー毎日という週刊誌への発表というところから考えたのでしょう。
作品初出は星さんが30代後半の頃、亡父の会社の倒産というゴタゴタから身を引き、作家としてやっていくという路線がようやく軌道に乗った頃だったのでしょうか。
しかしその作風は確固たるものとなっており「時事風俗や流行語を扱わない」という原則の元、無個性とも言える描写が普遍的な味わいとなっています。
極力流行のものを排除しているとはいえ、やはり文明の利器の影響は逃れられないようで、電話機、テレビ、ハイファイセットというところは仕方ないでしょうか。
まあ、携帯電話があれば成り立たないミステリーもあるようです。
たまに読み返してみるのも良いかなという短編集です。