なんとも、評論しにくい本です。
黄氏は台湾生まれ、石氏は中国で大学まで卒業し、ともに日本に来日し大学に職を得ておられ、日本で中国問題の研究とともに中国現状の批判の文筆活動をしているようです。
非常に中国に対して激しい批判ですので、中国からは当然かなり危険視されているでしょう。
ということは、日本人の中国嫌いの人々から見れば拍手喝采と言った言い方で中国をズバリと切って捨てているということでもあります。
その二人が対談の形で2012年の当時の中国を巡る状況を語っているのですが、その内容については真偽を言うだけの知識は私にはありません。
ただし、あまりにも断言しすぎ、ひとまとめにしてポイという言い方が少し気になります。日本の10倍以上の人がいる中国ですから、いろいろな面があるでしょうが、中国政府は、中国人は、中国富裕層は、あれこれと極めて単純化しています。
どうもこれはすべてを信じ込んだら危ないかなと思わせるものでした。
3年ちょっと前の状況についてのものですが、それがようやく2016年初頭になり表面化、実体化してきたかのようです。中国経済に対する不安感から世界全体の経済界も警戒の態度を強めています。この本に書かれている事態がようやく表れてきたのでしょうか。
3年前はちょうど現在の習近平が政権を奪取したところでした。しかし、本書はこの習政権で中国経済は確実に崩壊すると予言しています。
インフレと環境汚染が拡大し、内需は拡大することは無く、経済成長率が8%を割れば外資が撤退を始め、輸出に頼るしかない中国はすぐにも没落するということですが、ほぼその通りに進んでいるかのようです。
このような経済体制は、中国では共産党政府の歴史がそのまま反映した経緯が直接影響を及ぼしています。
中国の共産党政府樹立以降の権力闘争と言うものはおぼろげながらは知っていますが、さすがにお二人の解説は詳細にわたり、おそらく的確なものでしょう。
毛沢東から鄧小平、胡耀邦や江沢民など、名前だけは知っていたのですが、その役割までは詳しくありませんでした。
習近平は胡錦濤から政権を引き継ぎましたが、それはその前の江沢民が胡錦濤に飲ませた後継者選びによるもので、あくまでも妥協の産物だったそうです。
習近平の父親は共産党の幹部だったのですが、文化大革命で失脚し、習近平自身も農村に下放されたそうです。しかし、そこで実力で生き延び村の党書記になり、そこから出世が始まったということで、実力があることも間違いないものの、八方美人的に周囲を丸め込む才能にたけているということです。
ここで本書は「中国人とは」という原則論に立ち返り、中華思想と言うものの害悪について様々な面から語っていますが、そこは細かく取り上げてもあまり意味がないでしょう。
これから何が起こるかというのが一番の興味のある点です。
現在も富裕層を中心に中国人が数十万人規模で海外に逃れているそうです。富裕層は財産も海外に持ち出しているので、中国の国全体としての資産も減少していることになります。
そうなると中国に残るのは貧乏人だけと言うことになり、中国は最貧国に転落するということが現実になりそうです。
この末期的状況の中国ですが、軍事力だけは存在感を示すだけのものがあります。
しかし、その実力も言われているほどのものではなく、予算だけ見てもアメリカからはるかに離された2位に過ぎず、まともにアメリカに対抗できる能力はありません。
そればかりか、日本とももしもまともに当たれば勝てないと予想する軍事専門家が多いそうです。
そのためか、ロシアやインドなど、そしてアメリカも本心は尖閣諸島をめぐって日中が開戦することを期待しているとか。
そういった暴発があるかどうかはともかく、中国は国自体が崩壊し数十から数百の小国家に分裂する未来を迎えるという予測です。
習近平がラストエンペラーになるという予言ですが、どこまで当たるかは知りません。
3年前の出版当時なら本書内容はあまり信用できないということで済んだのかもしれませんが、かなり信ぴょう性も感じられる事態になってきました。中国頼りだった世界経済と言うものも情けない限りだったのですが、その今後も相当危ういもののようです。
状況変化に気を付けていないと思わぬ事態になるかもしれません。