爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「アベノミクスと日本資本主義 差し迫る”日本経済の崖”」友寄英隆著

これは非常に参考になる見方を示してくれた本でした。
著者の友寄さんは調べてみると「月刊経済」という本を編集していた方で、これは共産党に近い左翼系の雑誌だと言うことです。ネット上では「サヨク」というだけで色眼鏡で見るような人も多いようですが、それを知る前に本を読んでいくと一々もっともだと思うような記述が多く、実は現在の経済は「サヨク的」見方をしたほうが判り易いのではと考えさせてくれたのかも知れません。

本書発行は2014年6月で、参院選が終わった後の出版で昨年末の衆院選はまだ迎えてはいません。しかし、参院選の勝利後に勝ち誇った安倍が好き放題をし始めた状況は今ではさらに激しくなっており、本書の警告が緊急性をさらに増しているようです。
アベノミクスは「3本の矢」と称していますが、実は著者が言うように「5本の矢」が本当のところです。4番目の矢は「消費税増税などの負担増」5番目は「社会保障の減額」となります。これは現在明らかになってきています。

アベノミクスの発動は大型公共事業の復活として明らかになってきました。しかし、その効果と言うのはその時だけの限定的なもので、支出が終わるととたんに後戻りと、巨額の投資に見合うものではないようです。
また、トリクルダウン効果というものが最初から喧伝されてきましたが、すでにイギリスの経済紙にも「トリクルダウン・ペイン」として取り上げられており、また著者は実際は「トリクルダウン・アウェー」であると言い表しています。つまり、国内へのトリクルダウンなどというものは起こらずに、おこぼれも海外へ流出してしまうということです。
また、「成長戦略」ということが言葉だけは使われていますが、これはかつての「経済計画」の政策目標とは異なり国民経済全体との整合性などはまったく考慮されておらず、単なる願望を書いただけの物と批判しています。

成長戦略は明らかに「グローバル企業」のための政策に偏っており、それをいくら実施しても国民経済を上向かせるという方向には行かないようです。これは、現実の危機の原因解明に失敗しており、経済構造が二極化しているという認識がないために実効性がないということです。さらに、現代資本主義の最大の特徴である、多国籍企業というものについて、その資本の蓄積様式が国民経済とまったく矛盾しているという認識が無く(または知らぬ振りをしている?)そのために何をやっても多国籍企業へ貢ぐだけになっているということでしょうか。

最近の日本経済は以前のアメリカよりさらに激しく「三つ子の赤字」状態になってしまっています。経常収支、財政収支に加え、家計貯蓄率も赤字になってしまいました。この先の見通しは暗いものとなってしまいます。この家計貯蓄率については賀茂川耕助のブログでも紹介されていましたが、通常のマスコミ、経済評論家は無視しているようです。危ないものです。

このような経済政策を表す「新自由主義」はイギリスでサッチャー政権、アメリカのレーガン、日本の中曽根政権から始まってきたようですが、これを著者は一言で表現して「多国籍企業、多国籍銀行の利益を擁護する政策」と言っています。正に適切な表現かもしれません。
このような多国籍企業の資本蓄積様式というものは、以前の企業の様式と異なり国民経済というものを考えた時にその立場とまったく方向性が異なることをしてしまうようです。つまり、ある国で儲けた利益はその国では使わないということでしょう。
その結果、伝統的な「租税国家」「産業国家」「福祉国家」という枠組みが欧米日などの各国で崩れだしているということです。タックスヘイブンなる課税逃れにより租税が減少して各国の財政が破綻してきました。国としての産業育成とも反する企業行動でこれも崩れ、福祉も育成するつもりもない企業行動で崩壊していきます。
資本主義自体が崩れる危機にあるということで、これは日本のアベノミクスだけの問題ではなく世界的な危機なのでしょう。