爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「洗脳選挙」三浦博史著

選挙プランナーという三浦さんが選挙運動の進め方について解説しているものです。
少々古く2005年出版の本ですが、その時でも勝率9割だそうです。その秘訣は勝てそうな人しか応じないことだそうです。これまでに新潟県の泉田現知事、神奈川県の松沢元知事の選挙プランナーとして当選させたということです。
アメリカに留学した際に選挙運動の進め方というもののアメリカの戦略性に着目し、それを実際に企画している人々との交流を通じて学んで帰国してから日本では珍しかった選挙プランニングの会社を立ち上げたそうです。

巻頭に新潟県知事選挙で最初に泉田氏の選挙運動をしたときにことが詳述してありますが、選挙戦は決して楽なものではなく最初の分析ではやや劣勢だったようです。しかし、それを様々な角度から分析しそれに最良の作戦を立てて実行し、結局は圧勝するということを実行したそうです。

2004年の新潟県知事選挙は自民も民主も分裂してしまい、自民系でも小林・宮越・泉田の3名、民主系で多賀氏が立候補、ただし、民主票も一部は泉田に流れるという混戦模様だったそうです。その中で、保守系の小林、泉田と革新系の多賀が有力だったという読みです。しかし、小林氏はすでに年齢が68歳ということもあり、最終的には多賀・泉田の接戦になるだろうと予測しました。
多賀氏は大学教授でテレビ出演も多く、顔が売れているという有利さがあったようで、泉田氏が官僚出身で元は岐阜県にも出向していたという、新潟県での知名度は劣っているという難所がありました。
そこで、陣営として初めての定量調査(電話アンケート:これもきちんとしていない候補者・陣営がほとんどだそうです)を実施したところ、新潟市内など浮動票が多いところではかなりの劣勢なものの、他ではいいところまで取れる可能性があり、希望が出たそうです。
ここで選挙プランナーとしての企画力が発動し、多賀氏・泉田氏の双方のポジティブ・ネガティブ両方のファクターを分析したそうです。相手のネガティブファクターは攻撃の対象となるし、自分のネガティブファクターは守りから逆転への要素となり得るということです。
泉田氏のネガティブファクターは怪情報として噂も流されていたように、民主党の議員と仲が良く言いなりだとか、岐阜県職員時代には部下から馬鹿にされていたとか、当時42歳は知事としては若すぎるという点などですが、これらについてはきちんと裏を取った情報で反論できるようにし、さらに若すぎるという批判には逆手に取った戦術を考えたそうです。

さらに、選挙ポスターやパンフレットなども見直し、できの悪いものはすぐに変えるように手配しました。特にポスターでは自分で選んだ自己満足の写真を使っている例が多いのですが、それは全くの間違いでやってはならないことだそうです。皆が一番よいと思う写真を選ぶべきで、本人の好みは無視すべきとか。
さらに、デザイン、配色などもトータルで決めて戦略化すべきだそうです。このあたりも、最近の政党選挙では気を使い出したようですが、地方選挙ではまだ浸透しきれていないかもしれません。
若さを前面に出すという戦略では、「知事として日本一の営業マンになる」というキャッチコピーがあります。これは最近でも追従している候補者が多いようですが、特に都市部の若年層には強くアピールするそうです。

このように良く考えられた選挙戦を戦い、結果としては圧勝で泉田氏は日本最年少の知事となったそうです。

本書後半ではアメリカの大統領選などに見られるプロパガンダの成功例、失敗例などを語られています。あまり良くは覚えていなかったのですが、2004年の大統領選挙で投票直前に「オクトーバー・サプライズ」と呼ばれる事件があったそうです。一見普通の報道を装ったものですが、オサマ・ビン・ラディンの直近映像と言われるものを流した局があり、これが戦争に強いというイメージのブッシュへ票が流れる契機となったという分析です。これが無ければケリーが競り勝つところだったとか。これもブッシュ側のプロパガンダである可能性が強いということです。
他にも選挙CMなどは非常に良く研究され、それにそった企画というものが戦略的に作られるものがアメリカの選挙です。

実際に成果を次々とあげているという著者の実例まで挙げたもので、非常に興味深い内容でした。
ただし、何を狙ってのことかはよく分かりませんが、本書内でずっと様々な言葉に英単語が付記されているのは読んでいる上で邪魔でした。そのうちに無視できるようになりましたが、最初のうちはどうしても英単語に目が行ってしまい文章の流れの理解にはマイナスです。英語も知ってるぞと誇る必要はないように思いますが。