爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「インターネットはなぜ人権侵害の温床になるのか」吉冨康成編著

インターネットでの人権侵害、とくに最近はSNSでの事例(ネットいじめとも呼ばれます)が多く発生しているようです。これらについて、編著者の吉冨さんは京都府立大学の生命環境科学科の教授ですが、他の共著者の皆さんとともに現状をまとめています。

 

現在のインターネット利用者は平成23年で全体で80%に達しているそうです。

さらに表面に現れているのはごく一部でしょうが、インターネットによる人権侵犯事件というものは年1000件弱にのぼり、プライバシー侵害や名誉毀損が多くなっています。

実態はその数桁上の件数でしょう。

 

ネットユーザーの心理と言うことから考えていくと、対面でのコミュニケ―ションでは相手の表情なども利用しながら進めていくのに対し、ネットではそれが使えないために限られた情報でのみ反応してしまいます。

さらに掲示板やブログなどを自分の「居場所」として捉えているために、それを侵害されたと感じると極度に攻撃的になるという反応を示しやすいそうです。

またハンドルネームや匿名であるために現実逃避をしてしまいます。

そのようなことから、現実社会では到底できないような人権侵害をしてしまっても恥ずかしいという感覚も無くしてしまいます。

 

ただし、このような危険性と言うのは「人権侵害されてしまう」ものばかりでなく、簡単に「人権侵害してしまう」側にもなってしまう危険性であることも忘れてはいけません。

 

ネット上で人権侵害が行われていることを探す活動として「ネットパトロール」が行われていますが、そこで「外国人」「障碍者」「同和問題」などのキーワードで探していくと頻繁にそのような単語が見つかります。

これらの発信者は匿名であることがほとんどですが、その属性を調べると若年層、中学高校生などが多いことが分かります。人権問題に対する意識が非常に希薄であるということが分かるようです。

 

このようなネット上の事例について、法的な規定はさまざまであり、憲法での表現の自由というものはあるものの、刑法上の名誉毀損、個人情報保護、知的所有権侵害など関連する法規は多数あります。

しかし、どうも日本においてはネットの問題に対する法的な対応が後手後手に回り、国側も腰が引けているように見えます。ネットパトロールと言う活動も公的な機関ではなく有志でやっているような現状です。

 

刻一刻と形を変えていってしまうようなネット社会ですので、監視するということも簡単ではないでしょうが、野放しでもいけないということでしょう。それにしてももう少し行政の関与があっても良さそうなものです。ただし、中国のような国の統制と言うのにも問題がありそうです。どういった形の監視が必要か、真剣な討議が必要なのでしょう。