昨年始まったパレスチナとイスラエルの衝突はさらに激しさを増しています。
しかしあまりにも多くのニュースがあふれている割にはその背景や経緯がよくわかっている人はそれほどいないのではないでしょうか。
この本は共同通信社の特派員としてエルサレムでも取材経験のある著者が、2011年の時点までのパレスチナ情勢について多くの歴史的事実を解説しています。
そのどこの記述にも多くの死傷者が溢れるほどです。
本書の範囲内での最大の出来事は、オスロ合意を作り上げたイスラエルのラビン首相とパレスチナのアラファト、そしてラビンの暗殺といったところでしょう。
そこに至るまでの歴史なども簡単ですが紹介されています。
しかしいったんは和平に向かいかけた情勢も一気に悪化し、自爆テロが頻発、それに対してのイスラエルの軍事侵攻と激化します。
何とか和平に向かわせようとキャンプデービッド交渉も催されますが、失敗します。
パレスチナのテロが激化するとイスラエルの国論も反和平となり、シャロンが権力を掌握します。
あまりにも多くの人々が死んでしまっている、そしてそれがさらに双方の敵意を増していく。
ラビンは最後にはパレスチナとの和平に尽力しその結果暗殺されますが、彼もその経歴の中では多くの対バレスチナ強硬策の実行をしています。
イスラエル建国直後にはパレスチナ人の集落を襲い、住民を強制追放していますが、それを指揮していたのがラビンだったそうで、彼はそれを回想録に書いたのですが、周囲の圧力で削除させられたということです。
1987年にガザ地区の難民キャンプで衝突が起こり、それをきっかけとして反イスラエル住民闘争「インティファーダ」が始まりました。
これと同時に設立されたのがイスラム主義組織「ハマス」だったそうです。
その後、アラファトの権力基盤のファタハと競合するほどの組織に発展しました。
イスラエル政府は正規の国軍ではない不正規兵による軍事作戦をすべて「テロ」と呼びます。
そのため国家を持たないパレスチナ人の武力行使はすべて「テロ」としています。
逆に、「パレスチナ側の武装抵抗を”テロ”と呼ぶためにその定義を作った」とも言えます。
国際的には説得力のない論法と言えます。
この本の出版の後にさらに事態を悪化させることとなりました。
国際社会も無力なのでしょうか。