私は安倍政治絶好調のころからこの首相は日本政治史上「最低最悪」だろうと言い続けてきました。
今でもその思いは変わっていませんが、最近は現在のチンピラ首相の方がかえってタチが悪く順位が入れ替わるかもと思い始めていました。
しかし、この本を読んで安倍政治について改めて見直すとやはりこちらの方が桁違いの最低最悪だったと思いを新たにしました。
安倍政治がなんの成果も上げていなかっただけでなく、社会の多くの部分を崩し尽くしそれでも何も得られなかったということです。
本書は共同通信社の論説・編集委員であった柿崎さんが、安倍政治がフル運転をしていた2015年に書いたものです。
あのアベノミクスという幻想の政策で素人だけでなくプロの連中まで幻惑していたころでした。
しかし安倍はその言葉の端々に新国家主義の下心を垂れ流し続けていました。
それを指摘したとも言えますが、それでもまだまだ甘かったということでしょう。
本の最初は、賃金引上げや女性の活躍といった問題に対して、「国家先導」を大胆に発動してきた安倍の政策から始まります。
経済界に対して恫喝ともいえるような強力な指導で賃金引上げや女性管理職の増加を押し付けようとしました。
しかし、まあこれも現在でも全く進んでいませんのでなんの効果もなかったのでしょう。
安倍が政権復帰当時に言っていたのが「日本を取り戻す」でした。
今となっては「日本の”利権”を取り戻す」であったことは明白ですが、それに気づかなかった本書でも「何を取り戻すのか」と章を立てて論じています。
日本の真の独立を取り戻す意味であったなどとしていますが、そんなものはほんの看板に過ぎなかったことは明らかですが。
国家を第一と考える安倍の信条は祖父岸信介を絶対視するところから出ているとみています。
アメリカに対して対等な立場でものを言えることを目指したのが「集団的自衛権」への執着だったともしていますが、どうだか。
決してそのような意図はなかったものと推察します。
結果的にはアメリカに完全従属の道をたどっており、心の中では違っていましたなどといっても何を言っていることにもなりません。
というわけで、既存メディアの中心に位置する著者としては仕方ないのでしょうが、安倍政治の本質には踏み込めないままの本で終わりました。