爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「なぜ、あの『音』を聞くと買いたくなるのか」ジョエル・ベッカーマン著

音や音楽というものは人間の心理に大きな影響を与えます。

それが人の購買行動を左右するとも言えます。

 

そのような音の影響について、著者は様々な考察を課され「サウンドマーケティング」を実践していきます。

著者のベッカーマン氏はアメリカで実際に音や音楽を用いて広告制作などを手掛けており、さらにアメリカのプロフットボールの最終決戦、スーパーボールの音楽制作も行ったという、その方面で多くの実績を持っているそうです。

その豊富な経験と知識で音を用いたマーケティングについて記しています。

 

音や音楽というものは人の潜在意識に強く作用します。

そこに刷り込まれた情報により感情を動かし記憶を呼び起こします。

これを著者は「ブームモーメント」と呼んでいますが、本書で伝えたいのはそのブームモーメントを発見し創造する方法だということです。

 

多くの実例を挙げているため、それに通じた人にとっては分かりやすい説明となっているのでしょう。

ただし、私にとっては知らないものもかなりあるためにイメージしづらいものもありました。

アメリカ全土に店舗を持つ「チリーズ」というレストランチェーンはファヒータというトルティーヤに焼き立ての肉を載せる料理で有名です。

それを売り出した時に使われたTVCMでは肉が焼けるジュージューという音が前面に押し出されてそのイメージは強いものでした。

そしてその音を聞くだけでチリーズに行きたいと思わせるほどまでになったということです。

日本でも同じような努力をしているところは多いようです。成功するかどうかは知りませんが。

 

アメリカでもアイスクリームの移動販売車は今でも多いようです。

その車は伝統的に小さな鐘を鳴らしながら走っていました。

その鐘の音を聞くとたまらなく食べたくなり買いに行きたくなる子供が大勢いました。

さらにアイスクリーム販売会社の中には移動販売車で流す曲も固定するところがありました。

その曲を聴くとソワソワする子供も増えました。

 

ホラー映画が好きな人も多いでしょうが、その中で一番怖いのは「音」だということは意外に気が付いていない人が多いようです。

試しに音をすべて消してその場面を見てみても、ほとんど怖くないばかりか笑ってしまうこともあるようです。

怖く見せたいシーンには必ずそれを高めるようなサウンドトラックを入れる、それが映画製作者の定法のようです。

 

本書の中では「アンセム」という言葉が繰り返し出てきます。

これは単なるCMソングとは違い、企業や集団のイメージを作り出すような音楽だということです。

著者はアメリカのヒスパニック系住民のためのスペイン語放送局、ユニビジョンのアンセム作成に取り組んだことがあります。

ヒスパニックといっても多様であり、メキシコ系がもっとも多いのですが他にもカリブ海や南米系も多く住んでいます。

彼らすべてに受け入れられるような共通の音楽があるのかどうか。

なかなか難しいものだったようで、一方が好きなメロディは他方ではだめというものでした。

それでもドミニク共和国出身のロメオ・サントスに任せ、ドミニカのバチャータという音楽とメキシコのランチェラを融合させたような曲を使い何とか仕上げたそうです。

 

本書の中で繰り返し語られているのが、せっかく多額の費用を使って作っているCMなどで変な音を入れてしまって台無しにしている例です。(著者は実名で書いていて、日本企業の名も数多く失敗例で出ています)

もう少し音や音楽をきちんと考えて作ればはるかに良い影響を消費者に及ぼすことができるということです。

確かにそうなんでしょう。