「むかしをとこありけり」で始まる歌物語、伊勢物語はかつて高校で習った古文の教科書にも何篇も取られており、いくつかは馴染みのあるものです。
平安時代に成立したと見られ、「をとこ」は在原業平であろうとされています。
ただし、それを誰がこのような形にまとめたかということははっきりしていません。
しかし古くから古典文学の中で愛読されてきたもので、「伊勢・古今・源氏」と並び称されていたそうです。
覚えのある挿話の中には、「みちのくのしのぶもじずり」の歌を引いているもの、三河の国の八つ橋で「かきつばたの五文字」を歌の始めに入れた歌を詠む話、女を盗んで逃げたが途中で雷雨になったので女を荒れ果てた倉に隠しておいたら鬼に食われた話などがあります。
しかし、ずらっと並んでいる話を見ていくとすべてが男女関係のものであり、しかも次から次と相手を代えていくわけです。
最後の解説に、中河さんは「最近伊勢物語が読まれなくなっているのは古今調の歌が万葉調のものに押されているためではないか」としていますが、この「すべてが男女関係」ということも関係しているのではないかと思います。
まあ、源氏物語もほぼすべてがそれなんですが。