今や世界中にファンが広がっている日本のアニメ文化ですが、その基礎にはマンガの歴史がありました。
特にストーリー性を重視した長編マンガというものは、すでに戦前から多くの作家たちによって描かれていました。
この本では副題に「田河水泡から手塚治虫まで」とあるように、のらくろで有名な田河水泡から、手塚がアトムに至る前までの作品を振り返ります。
なお、著者の小野さんは1939年生まれ、さすがに戦前の作品は後から読んだのでしょうが、戦後のものは、家計の余裕もあったのか親に頼めば買ってくれたということで、多くのものを出版直後に読んでいたそうです。
その後、NHK勤務を経て映画・マンガ評論家として活躍しているようです。
とはいえ、私にとっては多くが初耳のものであり、辛うじて田河水泡の名を知っていた程度でした。
戦後すぐに幾編かの長編マンガを出版した松下井知夫という人は名前すら知りませんでしたが、その内容は驚くべきものだったようです。
冒険少年物なのですが、そこに出てくるSF的な事物は想像を越えるものでした。
著者は「戦後の本格的日本SFマンガのさきがけをなす」と評しています。
光速機、球形飛行体、X線透視望遠鏡など、今でも現実ではないものが満載です。
さらに太平洋戦争がアメリカの科学力で敗けたという意識が強かったのでしょうが、「いまや原子力は古い」というセリフでさらにその先を目指したとか。
昭和23年に36歳の若さで亡くなった横井福次郎という人も初耳でした。
しかし当時連載していた雑誌「少年倶楽部」掲載の「冒険児プッチャー」という作品は大人気で、サトウ・ハチローさんの息子さんが新聞でその訃報を見て「プッチャーはどうなるんだろう」と言ったとか。
多くの子どもたちの心をつかんでいたようでs。
こういった多くの先駆者により開かれた長編マンガの道が続く作者たちによって花開いたのでしょう。