何が「不愉快」なのか。
本書ではそれが「中国がすでに日本を追い越してアメリカと対抗する地位についたこと」であるとしています。
現在ではその事実はほぼ確定しており、いまさらだれも「不愉快」とは思わないかもしれませんが、この本執筆の2012年にはまだそこまで認識が進んでいなかったのでしょう。
思えばこの10年で中国は日本のはるか上にまで昇って行ってしまったということです。
したがって、本書は「実際はすでに中国が日本の上になっていること」、そして「その状況にどうやって日本が対応していくか」ということを繰り返し書いています。
しかし当然ながら、というか残念ながらと言うか、孫崎さんの懸命の訴えにも関わらず、その後の日本は全くそれとは違う方向に来てしまったようです。
今からでも遅くない?孫崎さんの忠告に従っていくべきなのかもしれません。
現在では中国がアメリカと対抗する唯一の存在であることを疑うものは居ないでしょうが、本書ではそれを最初に強調しています。
当時でも、アメリカはすでに中国に対する危機意識を明確に持っていましたが、日本人だけはそれを持たず、「いつまでたっても中国はアメリカを追い抜けない」と考えている人が大部分でした。
そうではなく、中国がアメリカに追いつき、追い抜きかねない情勢の中で日本はどうすべきなのか、「おわりに」の章でまとめています。
1,中国は経済・軍事の両面で米国と肩を並べる大国となる。
2,すでに米国は中国を東アジアで最も重要な国と位置付ける。
3,日本の防衛費支出と中国の国防費支出の差は10対1以上に拡大する。このため、日本が中国と軍事的に対抗することはあり得ない。
4,軍事力が米中接近してくると、米国が日本を守るために中国と軍事的に対立することはありえない。
これを前提とすると、日本の生きる道は限られてきます。
まず、領土問題は最も危険なものであり、それに対処するためには相手の主張を良く知り、自分の主張との間に客観的にどこで分があるかを理解するべきだが、日本は相手方の主張をほとんど知る者がいない。
ドイツとフランスは第1次・第2次の二つの大戦で大きな犠牲を払い、これ以上争わないようにEUを作った。
東アジアでもこれができないはずがない。
しかし日本がその道を歩む可能性は非常に低い。
本書執筆時点から10年が経ち、孫崎さんの予想通り日本は最悪の方向に走り始めています。
中国との緊張を緩和する役目を果たすどころかアメリカの走狗に懸命になりたがっているようです。
中に述べられているエピソードにも非常に参考となることがありました。
1990年時点では世界の金融機関のベスト6までは日本の銀行が占めていたのですが、2009年ではかろうじて9位に三菱UFJフィナンシャルグループが入っているのみです。
ここまで日本の銀行が弱体化したのは、BIS規制というものが大きかったようです。
BIS規制とは1988年に国際決済銀行によって定められた銀行の自己資金比率に関する規制(バーゼル合意)です。
自己資金比率が8%に達しない銀行は国際業務ができないというものでした。
日本の銀行は自己資金比率が低く、その規制にかかってしまうために何とか対応するとして貸出規制をしてしまいました。
また異常な増資も行ない、これが証券界の不況の一因ともなったということです。
この言葉自体は知ってはいましたが、こういう内容と思惑であったとは気づきませんでした。
尖閣諸島についての中国の主張、竹島についての韓国の主張をきちんと知っている日本人はほとんどいないでしょう。
ただただ「歴史的に日本の固有の領土だ」と言い張るばかりです。
中国にも韓国にもやはり「歴史的な主張」が存在します。
これらを精査し、その妥当性をきちんと判断しなければならないのですが、それをしようとする研究者は国賊扱いされかねません。
まあ、相手方も同じような状況でしょうが、理性的な対応をしたいものです。
中国に関してはその脆弱性、欠点をあげつらう議論ばかりが日本ではもてはやされるようです。
孫崎さんの見方は中々受け入れにくいものかもしれませんが、知っておくべきものでしょう。