著者は心理学研究者ではなく、産科の病院のお医者さんです。
大きな病院ですので毎日何人もの赤ちゃんが生まれますが、見ているといつも泣いている子もいる一方、スヤスヤと眠っている子もいます。
そういった様子を観察して、また多くの医学論文を読みながら、赤ちゃんの心理や個性というものがどういう風にできていくのかということを考察していきます。
人の性格や個性というものは遺伝が50%環境が50%などと言われてきましたが、それはどういうことなのか。
遺伝子が全く同じである一卵性双生児でも育つ環境が異なると似ている点もある一方、似ていないことも多いということが分かっています。
どうやらそこには「エピジェネティックス」という、DNAの後天的な変化も大きく関わっているようです。
体内の細胞にあるDNAはもともとはすべて同じはずなのですが、それが様々な外部環境の影響によってある部分がメチル化したりアセチル化したりすることで、そのDNAが作り出すタンパクも変化することが分かっています。
これをエピジェネティックスと呼びます。
このため、DNAの段階では全く同様な双子でも様々な面で異なるということになります。
その「外部環境」がどういうものなのか。
そこには生育環境から来るストレスといったものも影響しうるものです。
安心して眠っている赤ちゃんでは起こらない変化が、周囲が騒がしくなるとホルモンの分泌にも影響し、そのホルモンの作用がDNAの変化につながるということもあり得るようです。
「性格」は遺伝子で決まるのかどうか。
やはり遺伝子の作用があるのは間違いないのですが、それに関与する遺伝子がいくつあるのかも分かっていません。
「身長の高さ」は明らかに遺伝するのですが、それでも関与する遺伝子は数千個もあると言われています。
性格の遺伝子はそれよりはるかに多いのかもしれません。
遺伝病などでは単一の遺伝子によっておこるものも知られています。
フェニルアラニン血症というのは一つの遺伝子の変異で起きているのですが、それでもその病態は一つではなくかなりの差異が生じており、やはりエピジェネティックな影響が起きているのでしょう。
他にも、遺伝子に作用するものとして、運動、栄養、腸内細菌叢などにも触れられています。
内容はかなり高度でありその使われている術語だけで拒絶反応を起こす人が多いのではないかと感じます。
ただし、あまりに後天的な遺伝子への作用が強調されると、「親の責任論」が助長されるのではないかという心配も出ます。
乳幼児期の親の虐待が遺伝子を改変させてしまうなどと言うことになると、社会的な問題もあるのではないかと思います。
それを考えると、科学用語が多くて難しく感じるということがかえって良かったかもしれません。