太平洋戦争終了まで続いていた国家からの皇国史観による日本歴史の強制という状況が敗戦によって終了したのですが、それに代わる史観というものも確立できないままであった時期に江上波夫氏により提唱された「騎馬民族征服王朝説」というものは日本歴史学界に対して大きな激震を起こしました。
これは崇徳・応神といったかなり新しい時期の天皇家が実は朝鮮半島から侵攻してきた騎馬民族王朝だったというものでした。
主流派歴史学者からの反論も激しかったようです。
こういった状況の中で、1964年に開かれたのがこのシンポジウムでした。
当の江上氏の他に、文化人類学の石田氏が司会、考古学者の伊藤・小林氏、歴史学者の井上・関氏が討論者として登壇し、公開で発言していきました。
その記録を整理したのがこの本です。
江上氏により騎馬民族征服説の概要が説明された後、各氏から様々な反論がされるといった形式で進められました。
なお、討論者以外からも発言があり、社会学者家坂和之・日本史学石井孝・日本思想史石田一良・文化人類学泉靖一・言語学大野晋という各氏のものが収められています。
内容についてはすでに古くなってしまった部分も多いのですが、その当時の熱気というものが感じられるものとなっています。
この本の範囲からは外れますが、この2年後に中国や韓国の学者も招いて2回目のシンポジウムが開かれたそうです。
この問題の正確な進行のためには中国や朝鮮半島の考古学的史料が不可欠なのですが、まだそれが十分では無かったのでしょう。
騎馬民族征服説は大まかにいえばほとんど成立しないということになったのでしょうが、日本国内だけで日本古代史を論じることはできないということを広めたということは言えるでしょう。
大きな一石を投じたという役目は果たしたということなのでしょうか。