爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本型ポピュリズム」大嶽秀夫著

ポピュリズム型政治家といえば、大衆迎合型の政策を唱え人気を取るというものというような感覚で見ていましたが、それについて政治学者の大嶽さんが解説したものです。

ただし、2003年出版の本ですので、それ以降のそのタイプの政治家は触れていません。

今だったらどう描くのでしょうか。

 

ポピュリズムという概念には2つの源流があったそうです。

一つはアメリカ合衆国史のなかで、19世紀末に農民が労働者などと連合し鉄道企業などの独占企業に対して人民党(People’s Party)を結成して展開し運動。

そしてもう一つは1930年代から1950年代にかけてラテンアメリカにおいて大衆的支持を得た権威主義体制。

そしてさらに最近のヨーロッパの極右政党をネオ・ポピュリズムを呼ぶということです。

特に、アルゼンチンのペロン、ブラジルのヴァルガスのように、個人的カリスマを持ち扇情的なスローガン、無責任な大衆迎合的政策を連発するものがその典型です。

 

アメリカでもっとも成功したポピュリストと言うのがロナルド・レーガンということです。

アメリカでは「普通の人」というのが民主主義の担い手であり、権力者はしばしばその理想を無視して裏切る存在であるという概念があるのですが、その「普通の人」の先頭に立って権力者たちと戦う指導者としてのイメージに合わせたのがレーガンでした。

 

本書では日本型ポピュリズムの政治家として、おもに小泉純一郎を取り上げて描いていきます。

それとともに、かなり性格は異なるようですが田中真紀子にも触れています。

また、小泉に至る前段として1990年代の政治改革を求める状況、自民党派閥政治を終わらせた加藤の乱なども語ります。

 

2001年に森政権は数々の失態で不支持率79%という断末魔状態となりました。

森は退陣を表明したのですが、その後継を選ぶにあたっては当初は橋本という話が党内でも大勢を占めていました。

しかし、小泉が一般国民の人気を一気に獲得していき、総裁選挙を実施させることになります。

それでも選挙では橋本が圧勝するという予想だったのですが、国民支持を背景にブームを呼んだ小泉の当選となりました。

 

しかし、その小泉のパーソナリティーはそれほど人気を集めるようなものではなかったようです。

その性格は「明治型」政治家としています。

また、複雑な社会現象を体系的に抽象的に思考する能力は低く、具体的、感情的なレベルで捉えてしまいます。

ただし、それが大衆受けすることになったという側面があります。

またタカ派的に見られることもありますが、その主張も根の浅いもので、スタイルに過ぎないものだったということです。

 

このポピュリストとしての小泉をレーガンと比較して論じています。

レーガンではネオ・リベラリズムの特徴を強く持っているのに対し、小泉では日本の特徴としてネオ・リベラリズム的側面があまり出ていなかったということがあります。

レーガンと比べて左翼への対決姿勢が弱く、民主党との共闘を何度か示唆しています。

小泉の場合、批判の中心は官僚や公務員の既得権益擁護姿勢となり、それが郵政改革にもつながりました。

また、意外にも小泉は扇情的側面が少ないとも言えそうです。

小泉にはレーガンのように国民に自信を与えさせようというポジティブなポピュリズムというものがほとんど見られませんでした。

 

このような政治の動きを後押ししたのが、その時期に大きく変容していたニュース報道でした。

田原総一朗の「サンデープロジェクト」、久米宏の「ニュースステーション」などが人気を集めたのですが、それが政治改革などについても繰り返し取り上げることで気運を高めました。

本書では細川政権誕生前後の「ニュースステーション」「筑紫哲也NEWS23」の番組内容も詳細に分析しています。

 

「支持政党なし」がもっとも多くなった以上は、このようなポピュリズム型政治家によって左右される政治が続くのでしょうか。

ただし、それになりそうでなれなかった多くの政治家(小沢一郎石原慎太郎、青島幸雄、横山ノック田中康夫等々)も続いたということも事実であり、その差は微妙なもののようです。