ドイツのグリム兄弟が古代ゲルマンの民話や伝説をもとに童話集を刊行してから約200年経つそうです。
しかし、その中の有名な話とそっくりのものが中国各地の民話として残っているということはあまり知られていないようです。
本書著者の百田さんは長年にわたって中国各地で民話の収集を続けてこられていますが、その中にはグリム童話と同じパターンのものが多く含まれていました。
その中から、グリム童話の中の「長靴をはいた猫」「シンデレラ」「白雪姫」「狼と七匹の子ヤギ」「サルとカニ」に類似した民話をまとめてみたものです。
なお、百田さんの民話の収集範囲は中国全土に及んでいますが、本書で取り上げられたものはやはり辺地の少数民族のものが多くなっています。
しかし、いくつかは中央部の漢民族のものも含まれていました。
グリム童話の「長靴をはいた猫」という話は、粉屋の息子が猫の活躍のおかげで王女様の婿になるというものです。
中国各地の民話でもこのパターンのものが見られますが、その動物としては狐(モンゴル族、ウイグル族)と兎(チベット族、チャン族その他)が活躍します。
この動物の相違は各民族の居住環境の中で特に賢いと見られる動物が選ばれているようです。
いたずらをしたその動物を殺そうとすると、「助けてくれれば王女様の婿にしてやる」と言って助けられ、思いもよらない活躍をするというあらすじはほぼ共通しているようです。
シンデレラはまさに「灰かぶり」という意味であり、そう呼ばれるべきなのですが、日本ではシンデレラと言う言葉の方が通用しているため、そのまま使っています。
その話の骨格は次のようなものです。
1,シンデレラの生母が亡くなり継母が迎えられて義妹が産まれる。(または連れ子)
2,シンデレラは継母にこき使われるが牛の援助を受ける。
3,シンデレラは継母の課す難題を果たして祭(婚礼、芝居など)に行く。
4,そこで王子(貴族、長者の息子など)に見初められる。
5,靴などの物に合致することで婚約する。
6,シンデレラは王子と結婚し、義母義妹は罰せられる。
これが「シンデレラ第1型」です。
これには中国の東北部から西南部までの広い範囲に11の民族の民話が残っているそうです。
ところが、中国にはこの第1型とは異なり、「めでたしめでたし」では終わらない「第2型」の方が多数残っていました。
こちらは、王子と結婚したシンデレラを義妹が訪ねて来るのですが、そこでシンデレラをうらやんだ義妹によってシンデレラは殺され義妹がそれになりすますということになります。
しかし、やはりシンデレラは蘇り義妹は罰せられるということになります。
こういった第2型のものが20民族に残っていたそうです。
このようにグリム童話とほとんど類似した民話が中国各地にも残っているのですが、どちらかがどちらかに伝わったのでしょうか。
中国の民話ははっきりとした成立年代は不明ですが、かなり古いもののようです。
グリム童話は200年前に書かれましたがその基になる話はそれより古いものでしょう。
何らかの関係はあるのかもしれませんが、明らかではないようです。