クリスマスといえばキリスト教の行事ですが、日本ではそれとは関係なく商業的なものとして多くの人を熱狂させています。
そのようなクリスマスというものは、歴史的にどういう経緯でできてきたのか、そして世界各地ではどのようなものとなっているのか。
さらにクリスマスに関わる音楽、美術、文学から映画まで。
クリスマス全体を見渡すようにまとめられた本です。
なお、編者の嶺重さんと波部さんは関西学院大学で「キリスト教と文化、クリスマスの起源と展開」という講義をされたそうで、本書の内容はそのテキストとして用いられたものであり、本にするにあたってさらに多くの著者にコラムを書いて貰い挿入しました。
イエス・キリストの誕生については、新約聖書のマタイ福音書、ルカ福音書に記されていますが、その中にローマ皇帝アウグストゥスの命により住民登録をすることとなり、そのためにヨセフとマリアはナザレからベツレヘムへ向かって行ったとされています。
しかし、歴史的にはローマ帝国全域を対象に住民登録をするようにアウグストゥスが命令したという事実はなく、ヨセフたちがベツレヘムへ向かったということの理由を付けるためにルカが創作したものと見られます。
さらに、初期のキリスト教ではイエス・キリストの誕生日を祝うという行事はありませんでした。
誕生日を祝うという習慣は、古代オリエントやギリシア・ローマでは見られましたが、キリスト教徒はそれをかえって異教の習慣として批判的に見ていました。
しかし4世紀になりローマ帝国でキリスト教が公認されるようになると、ローマの風習であった誕生日を祝うということを、イエスに対しても行うようになります。
12月25日という日付もそのころにローマで祝われていた「サトゥルナリア祭」という祭りから拝借してしまったようです。
世界のクリスマスという項では、スイス・デンマーク・アメリカ、そしてなぜか中国と日本のクリスマス事情が詳しく紹介されています。
キリスト教国での伝統的なクリスマスの習慣もありますが、元はピューリタニズムの影響であまりクリスマスを祝うのに積極的でなかったアメリカで、商業主義の影響から盛んな祝祭となった事情も分かりました。
また、日本ではキリスト教徒以外も浮かれ騒ぐことが批判もされていますが、現代の中国や韓国でも同様のようです。
商業主義のアメリカの影響が強いということなのでしょう。
クリスマスといえば、それを扱った音楽、小説、映画など非常に多いのですが、クリスマスと音楽というのは商業的なものである前に本質的に結びつきが強かったようです。
そもそも、マリアに受胎告知した天使はその場面で歌いました。
またクリスマスに限らずミサにおいては多くの典礼は実際に歌われていたということからも、キリスト教と言うものは音楽との結びついていました。
グレゴリオ聖歌のなかにもクリスマスに歌われる重要な賛歌が含まれています。
後になりイギリスやドイツでは民衆の中で歌われるキャロルという音楽が生まれ、その中ではクリスマスに歌われるクリスマスキャロルが重要なものでした。
バロックからの時代でも多くの作曲家はクリスマスの音楽を作り、バッハのクリスマスオラトリオはもっとも重要なものです。
なお、最後に編者の指導するゼミの学生が関西圏の大学生100名にアンケートした「あなたはサンタクロースの存在をいつまで信じていましたか」という調査結果がまとめられていました。
一番多い回答は「小学校3年から5年」だそうです。
それまではサンタの存在を子供に信じさせようと懸命な親も、子供がそれくらいに成長すると今度は「いつまでもサンタを信じているようでは心配」となってしまい、それとなく分からせるようになるのでは。
なお、それでも2名の女子学生は「まだ信じている」そうです。